「3Dプリンティング」生産方式に向いている分野、いない分野

「インダストリー4.0」で注目される新技術にはピンからキリまであって、中にはITベンダーたちが囃し立ててはいても「表紙を替えただけ」なのではと思わせるものもある。一方で、一般のビジネスパーソンには見えないところで使われ、地味ながら多くの産業の優劣を左右しかねないものもある。後者の代表が「3Dプリンティング」生産方式である。


数年前から注目されている新技術にadditive manufacturingという生産方式がある。「金属3Dプリンティング」とか「3Dプリンター」方式などとも呼ばれ、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)と並んで「インダストリー4.0」を支える大きなポテンシャルを持つ技術として研究・実用化が進んでいる。本コラム記事でも以前に紹介したことがある。

「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり
http://www.insightnow.jp/article/8412

某大手メーカーの事業変革プロジェクトで判明したのだが、この「3Dプリンティング」生産方式に対する態度には大手メーカーの技術者でもかなりの幅がある。「ほとんど使いものにならない」という全否定派から、「産業構造を根こそぎ変えてしまう」という礼賛派までいるのだ。

そのプロジェクトの中核メンバーが後者の代表だった。課題とされる製造スピードの遅さや機器が高額なこと、もしくは異なる金属材を組み合わせにくいことなどは今後急速に改善され、遠からずニッポンの強みであるモノ造りの構造が根本から変わってしまう、すると自分たちのビジネスモデルが通用しなくなる、と大騒ぎだったのだ。

確かに、継ぎ目のない一体成形ができることで大きなインパクトの製造変革がもたらされる可能性が低くない。しかし彼らがその根拠として挙げていたのは、米国の著名研究家数名がそうした趣旨の発言を繰り返していたためであると分かって、小生はむしろ鼻白んでしまった。製造する製品・部品・部材を区分して、「これはこんな具合に作り方が変わっていくだろう」という分析・検討が行われたわけではなかったためだ。

多少面倒だが、そうした腑分け作業をやってみるとすぐに分かることだが、従来方式で作られていた金属製品・部品がごっそりと「3Dプリンティング」方式に切り替わることはあり得ない。

その一番の理由は「3Dプリンティング」生産方式の構造から来る精度の限界にある。詳細は関連資料をあたっていただきたいが、金属3Dプリンターで製造できる寸法精度は0.1ミリ程度に留まる。これが今後飛躍的に改善しても、「吹き付け」もしくは「溶解」という方法で達成できる限界は、精々0.05ミリ前後だろう。したがってベアリングボールなど、滑らかな面を要求する多くの精密部品をそのまま製造できるわけではない。

ましてやベアリング(軸受)や可動ジョイントなどの稼働部分を持つモジュールは、理屈から言っても一体成形できない。これが2つ目の理由である。相変わらず別々に作った部品を組み合わせざるを得ない。たとえ一部の部品が3Dプリンターで製造されていても、同じことである。しかも高い精度が要求される部分については改めて事前に研磨する必要がある。

それならば機器コストが無闇に高く製造スピードに劣る「3Dプリンティング」方式でわざわざ部品を作る必要はない。相変わらず金型で作り出した金属材を切削し、研磨し、それから組み立てたほうが速くて安いのである。つまり「一体成形」という利点だけで「3Dプリンティング」方式に軍配が上がるケースは、実は礼賛派が言うほど多くないのである。

しかし、だからといって「3Dプリンティング」方式を一時の流行などと捉えてしまうと大きな間違いを犯すことになる。欧米の多くのメーカーが現在、高額な3Dプリンターを導入して、どういう場合にメリットを発揮できるのかを研究中なので、1~数年経つと、この技術を無視していたメーカーたちは泡を食うことになるかも知れないのだ。

「一体成形」と並んで、小生が「3Dプリンティング」方式の最大のメリットとして見ているのは「中空構造成形」である。軽石を思い浮かべていただきたい。ある程度の強度を保ちながらもかなり軽くすることが可能になるのである。

これが大きな価値を持つのが航空機器や自動車、高層用建築材など、軽量化に躍起になっている分野であろう。事実、GEは航空エンジンにこの技術を実用化し始めている。

自動車の部品・モジュールのうちある程度の大きさがあり、薄さと極端な強度を要求されないものについては「中空構造」で問題ないかが一通り検討され、順次実用化されていくのではないか。アルミやチタンよりも安く済むため、有望な軽量化手段としてやがて本格化すると小生は見ている。

とりわけ自動車製造分野で実用化されると、産業のすそ野が広いだけにインパクトも大きい。関係する産業や自治体では、今のうちにこの新しい生産方式への備えを進めていただきたい。