4630万円誤送金問題の本質は、町の隠蔽意図と容疑者のマネロン狙いか

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山口県阿武町が新型コロナの給付金を誤って振り込んだ問題で、警察は振り込みを受けた無職の田口翔容疑者(24)を電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕しました。振り込まれたお金が誤送金されたものと知りながら自分の金と装い、別の口座に400万円を振り替えた容疑です。警察はこの後、残りの金額についても追加逮捕して、長い期間を掛けて取り調べをするつもりなのでしょう。


4,630万円が誤って振り込まれた4月8日から19日にかけて田口容疑者は34回にわたって金を引き出しています。警察の取り調べに対し田口容疑者は容疑を認めていて、「オンラインカジノで使ってしまって残っていない」などと供述しているということです。

また弁護士によると逮捕前、「お金を使ってしまったことは大変申し訳なく思っている。少しずつでも返していきたい」などと返金の意思を示していたとも報じられています。

この事態に対しメディアやコメンテータ、そして世間の多くの人たちは、阿武町の対処に関し「大金の振り込みミスとは公金の取り扱いに対する意識が低すぎる」「本人の『返す』という最初の言葉を信用して差し押さえしなかったのが甘過ぎ」などと対処のまずさに非難を浴びせています。しかし本当にそこが一番の問題でしょうか。

また、田口容疑者に対しては「モラルが低い」「オンラインカジノとは今どきの若者らしい」「一生暮らせる訳でもないのに4,630万円ぽっちに目が眩んで一生を台無しにして愚かだ」などと本人の言い分を信用して理解しようとしているコメントが目につきます。でも本人の主張をまともに受けていいのでしょうか。

私はどちらも違うと思います。事件の経緯をよく見ると、事態はそんな単純なものではないことが分かります。事件の経緯は次の記事の通りです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/3e958e8aeb2595e192d036da1680f6cc86010f82

そして4月8日の少々詳しい行動は次の記事で説明されています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a5faba0731f00bac8f18fdd82ace7d49a998862b

4月8日の問題発生時点で両者(阿武町、田口容疑者)の態度は常軌を逸しています。

田口容疑者は明らかに時間稼ぎをした上で金曜の銀行営業時間が過ぎるタイミングを狙って「きょうは手続きをしない」と返還手続きを拒否し、帰宅してしまいます(しかもその日にいきなり別口座への送金を実施)。つまり思わぬ金が手元に転がり込んだことを知って風呂に入っている間に「何とかネコババできないか」を考え、車での2時間の移動の間に「とりあえず今日はぎりぎりまで引っ張って誤魔化そう」と決断していたと推測できます。

普通だったらこうした行動を示した相手に対し、返金して欲しい阿武町の担当者と責任者としては「何か怪しい」「すぐに返したくないと考えている節があるな」と危ぶんで、銀行と弁護士に対処を相談するでしょう(弁護士が相談されていたら間違いなくこの時点で金融機関への仮差押え措置を執ります)。リスクを重大視する人ならばこの時点で警察にも相談するでしょう。でも町は何の有効な行動も起こしておらず、週明けに田口容疑者との間で押し問答を繰り返しているのです。

なぜ町はこんな重大なリスク事態なのに(阿武町にとって4630万円というのはかなりの大金です)誰にも相談をしなかったのか。専門家に相談する手を思いつかなかったはずはなく、「住民男性を信用していた」という言い訳はあまりに嘘くさいですね。一番可能性が高いのは、町の関係者はこの誤送金ミスを表沙汰にしたくなくて、すぐには外部の誰にも相談できなかったということではないでしょうか。

つまりこの事件で被害者づらをしている阿武町は実は事態を隠蔽しようとしていたのでしょう。その町の足元を見て「こいつらはすぐには警察に届けないな」と見切った田口容疑者が時間稼ぎをする余裕を見出し、一生懸命悪知恵を働かしたというのが真実ではないでしょうか。

こう考えると、田口容疑者の主張する「オンラインカジノで使ってしまって残っていない」という説明も疑って掛かったほうがよさそうです。確かに一部はオンラインカジノで擦ってしまったかも知れません(どうせ元々他人のカネなので、運試しをした可能性は十分あります)。

でも最も可能性が高いのは、オンラインカジノの口座を経由してまた別の口座に移して(つまりマネーロンダリングして)、ビットコインなどの暗号資産を買ったというパター―ンです。私も今回の報道で知ったのですが、オンラインカジノの口座というものは入金先と出金先が別々でも構わないそうです。絶好のマネーロンダリング向きの仕組みです。

つまり田口容疑者は、逮捕され刑務所送りになる覚悟で(多分、「臭いけど飯は食える」と開き直った)、誤送金された大金を一旦ネコババし、それをオンラインカジノ経由でマネーロンダリングしてビットコインなどの暗号資産を買っていて、刑務所出所後に値上がりしていたら換金して少しずつ返金することで差額を懐に入れようと考えているのではないでしょうか(ビットコインなどは値動きが激しいので、タイミング次第では十分値上がりしてサヤを抜ける可能性はあります)。

かなり捨て鉢発想の博打ですが、給付金が振り込まれる前の田口容疑者の口座残高は665円だったと言いますから、まともにやっていては生きていけない、「いずれ生活保護か」というぎりぎりの暮らしだったのでしょう。4,630万円の誤送金というこの「人生で唯一の幸運」にイチかバチか賭けてみたということかも知れません。

お金を使ってしまったことへの謝罪や返金の意思を示しているのは弁護士のアドバイスによるもので、情状酌量を勝ち取って早めに娑婆に戻る(そしてタイミングを見て換金する)ための方便でしょう。本人はまったく反省どころか、「うまく立ち回っている」とほくそ笑んでいるのではないでしょうか。

確かに、若いのにこんなに悪知恵が働くのはある意味大したものですが、やはり真っ当な人生を歩む可能性を自ら捨てているとしか言いようがありません。