ESの高さが驚異の顧客サービスを産む実例がここにある

ビジネスモデル

7月25日のカンブリア宮殿「“幸せ”サービスで客の圧倒的支持 長野発タクシー革命!」は意外なほど充実した内容だった。そのタイトルと予告の動画からはむしろ「胡散臭い」香りだったが、何となく録画したのを観たところ、予想を超えた面白さだった。

主役は長野市ではダントツに有名な中央タクシー。長野市民から圧倒的な支持を得て、県内ナンバー1の売上実績を誇る。地方タクシー会社の9割が赤字といわれる昨今、2012年度の経常利益は過去最高を記録。この会社のすごさはまず、中央タクシーの客の9割が電話予約という事実。いわゆる「流し」はしないし、一旦入ったら2~3時間を覚悟しなければいけない駅前のプールには入らない。その必要がないのである。一度でも乗ればほとんどの客がリピーターになるので、「指名」だけで成り立っているのだ。

その秘密は徹底した真心サービス。中央タクシーのドライバーは皆、驚くほど親切である。高齢者にはさっと手を貸し、さりげなく買い物袋を運び、雨の日には傘も差す。そして、車内の会話を通して客の家族のことを気にかけ、300メートルという超近距離でも喜んで運行する。

「客の幸せが先、利益は後」そんな経営理念で、長野では知らぬ者はいない。そんな中央タクシーには、驚くようなサービスを目の当たりにした客からの感謝の手紙が絶えない。米百貨店、ノードストローム社にあるような逸話が中央タクシーにもごまんとある。しかし当人たちがいちいち自慢気に報告しないから経営者も客から知らされるばかりだという。当人たちは言われたからではなく、それが当たり前だと思ってやっているから、むしろそれを驚かれることに戸惑っているようだ。

中央タクシーに、接客マニュアルは存在しない。その質の高いサービスを支えているのは、驚くほど仲の良い社員たちの人間関係だ。会長の宇都宮恒久氏は言う。「社内の良い人間関係こそが、良いサービスを生み出す」と。離職率が20〜30%といわれる業界にあって、中央タクシーはわずか1. 5%という低い離職率である。

同社社員同士の幸せが客を幸せにするという好循環を生み出している。この〝言うは易く行なうは難し〟の理想的な経営スタイルはなぜ実現できたのか?その秘密の一つは、同社社員は皆、採用されたときには素人、未経験者ばかりなのである。しかし、だからこそ業界の変な癖や価値観に染まっておらず、同社の価値観に違和感なく溶け込めるのだ。

そうしたES(社員満足度)の高い社員のもたらすものが、高いモチベーションと「お客様がタクシーに求める事を実現したい」と考えるから生まれるヒット企画である。最近のヒットは、業界初の試み「家からの旅」通称イエタビ、つまり乗り合いタクシーを使った自宅からの日帰り旅行。県内観光地を巡るだけでなく「歌舞伎座ツアー」「咲いたら行くお花見ツアー」「孫と行く夏休みツアー」など顧客のニーズに合わせたテーマの、様々なプランを運転手たち自らが企画開発に関わることで、他にない気配りの行き届いたサービスをつくり上げている。

(京都のKMタクシーと並んで)業界の有名な異端児が新たな地平を切り拓くべく、今日も挑戦を続けている様子は、見ていて気持ちいいものだ。