高速バス業界の危険な実態

社会制度、インフラ、社会ライフ

連休に入って日本全国そこらじゅうでレジャーに出かける人たちの様子が報道されている。その中に、先ごろ新宿に新設された巨大バスターミナル「バスタ」から高速バスに集まる、楽しそうな人たちがいた。これから行楽地や故郷に出かけようとする若者たちの笑顔がまぶしいほどだ。

その一方で、13人の大学生の命を奪った、1月のスキーバス事故が脳裏に浮かんだ。ちょうど連休の前半である4月30日(土)に放送されたNHKスペシャル「そしてバスは暴走した」を観たばかりだからである。

NHKは今回、貸し切りバスの現場にカメラを入れ、業界の今をつぶさに記録してくれた。そこから見えてきたのは、運転手不足から、高齢のドライバーが過酷な勤務を担っている現実、そして利益優先で安全対策を怠る会社が跋扈する実態だ。これは強烈だった。決して「バスタ」に咲く笑顔が浮かぶようなものではない。

遺族のひとりは、「事故は日本が抱えるひずみによって発生したように思えてなりません」と語った。これまでも、大阪や群馬で乗客や乗員が死亡する事故が起き、その度に規制が強化されてきたはずだった。それにもかかわらず、事故はまた起きてしまったのだ。

なぜ、こうした事態に至ったのか。そもそもは小泉・竹中政権が強引に進めた、安全軽視の規制緩和の一環だ。経験や実績不足の会社でも数台のバスを買える資金さえあれば気軽にチャーターバス運営会社を始められるようにしたことに無茶がある。

その結果、参入企業が増え過ぎて過当競争が生じ、値段の叩き合いに陥った。旅行会社の言うがままに、利益の出ない価格でも受注するようになってしまったのだ。国交省は適正な人件費を考慮した最低価格を目安として提示していたが、監視もされていなければ実質的な罰則もない状況では誰もルールを守らない状態になるのは必然だった。

新規参入したバス会社の幹部の多くはそうしたルールの存在すら知らなかったというお粗末な実態が、今回の報道で明らかになった。結局、国交省が示した最低価格という歯止めは全く機能せず、そもそもは「一応は規制しているので俺達には責任はない」という役所のアリバイつくりに過ぎなかったのではないか。

これにより、安全に対し無配慮で無責任な政治・行政の態度を見透かした、儲け主義の連中(バス会社だけでなく旅行会社も同罪)が跋扈する、非常に危険な業界を作り上げてしまったのだ。

心ある消費者は、いくら安いからといって高速バスを利用する/させることで自らの家族を危険にさらす愚行はしてはならない。結局、自らの安全を守ってくれるのはバス会社でも政治家・役人でもなく、自らが安全かどうかを見極める態度なのだ。