道路インフラを考える(3)ガラパゴス化したインフラ輸出は無理

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官民こぞってのインフラ輸出熱にもかかわらず、今の日本の道路インフラ・パッケージを買ってくれる国はない。冷静に各国のニーズと受け入れ態勢を見極め、必要な機能をコンパクトにまとめる「再パッケージ化」の努力が不可欠。

前回の記事では、次のことを論じました。道路インフラの維持管理コストの抑制が不可欠なこと、そのための手段として現実的なものは、地域住民によるボランティア活動の取り込みと、ICT(情報通信技術)による徹底した省力化・効率化である、ということです。ただし民間各社が提供する測定・診断技術やシステムをどう連携させると本当に効果的なのかをきちんと検証してから推進すべきと提案しました。

その際、道路インフラ維持管理分野で有効な方法を開発できれば海外へのインフラ輸出のキーパーツとなる可能性も十分あると述べました。それは即ち、今のままではインフラ輸出の目玉にはならないということでもあります。今の日本の道路インフラは日本の特殊な道路管理事情に合わせ過ぎているため「ガラパゴス化」しており、海外では無駄な部分が多過ぎるからです。

日本の道路インフラの「ガラパゴス化」は、道路管理者の役割が海外のそれと全く違っていることからきています。

日本での高速道路の建設は、各々の道路事業者が計画・設計から実施まで包括的に行っており、道路建設業者や設備・機器ベンダは彼らの意向を汲んで最適な施設を組み上げています。そして道路事業者が自ら維持管理を行います。そのためそれぞれの道路事業者毎に最適化した「道路システム」(道路施設と運用管理システムを総称して仮にこう呼びます)が出来上がっています。国道については国交省地方整備局が同様の役割を果たし、県道については県がそれにならっています(それに対し、一般道を管轄する市町村ではほぼ無管理状態であることは、前回記事で指摘した通りです)。

一方、海外では道路の設計・調達業務は、道路管理者ではなく、公共建設を専門とする設計事務所(とはいえ大企業です)やエンジニアリング会社が主に行います。欧米では生涯コストを考えて「極力、標準規格品を使うように」と指定することが多いのに対し、新興国では建設コストが安ければOK、といった違いはあれど、道路管理者が細かいところまで自ら行うことはまずありません。その分だけ、外部専門家の、地元事情に合わせた企画・設計能力や、標準的な規格品を使って他社(下請けとは限りません)と協業・調整する能力も発達しているのです。

日本の事情に戻りますと、高速道路に代表される有料道路では、道路・橋梁・トンネルなどの骨格となる施設が少々過剰なほど高品質に整備されているだけでなく、状況把握のためのセンサーや監視カメラ、情報伝達のための道路標識・電子表示板、それらを統括制御する巨大管理センター設備、豪華なサービスエリア・パーキングエリアなど、欧米水準からみても至れり尽くせりの付帯施設がそれぞれの道路事業者の仕様に合わせて揃っています。その結果、そのまま海外に輸出しようとしても、標準化不足で過剰仕様ゆえ割高過ぎるため、各ベンダも道路事業者も苦戦が続いています。高速道路を除いた国道・県道・一般道も、先に挙げた付帯設備の一部が不要になる代わりに信号や標識が過剰気味に装備されるせいもあり、その建設・維持コストは巨額となりがちです。

ここまでの「ガラパゴス化」事情の説明を聞かれて、「どこかで聞いた話だな」と感じた方も多いでしょう。そう、通信業界とよく似ています。通信キャリア側が独自仕様をあれこれ企画・指定してメーカーに作らせた携帯端末は、高機能ではありますがあまりに特殊・過剰仕様で、海外に輸出しようとしても価格的に全然太刀打ちできなかった。いわゆる「ガラパゴス・ケータイ」です。同じ構造が日本の道路インフラの輸出を困難ならしめているのです。

日本の道路建設コストは欧米の2倍以上とされます。一時期、財務省や民間から「日本の道路事業費は世界的にみると異常に高く、数倍する」といった主張が相次ぎました。それに対し国土交通省は、日本の道路は地震・治水対策が必要なのと橋やトンネルが多いためにコスト高になっているのであって、同じ仕様なら(人件費や土地収用費を除く)純粋な建設コストの内外価格差はほとんど無いと主張しています。でも雑誌SAPIOによれば、一般国道(4車線)でも1m当たり300万~400万円もかかっているということですから、建設方法自体と装備施設に割高要因があることは否めません。欧米諸国に対してですら割高なのですから、新興国や発展途上国に対してはお話にならないレベルだということです。

小生はある仕事で高速道路事業者の方にインタビューしたことがあります。その方も、日本の道路システムを海外に輸出するにはこのコスト差を大幅に縮める努力が不可欠であること、その要因の一つが過剰設備・過剰仕様(特に最先端技術を詰め込むこと)であることを認めておられました。

また、ある東南アジア主要国の交通行政担当官もやはり、日本の道路インフラ輸出の最大の壁は割高な建設費であり、その原因は過剰設備・過剰仕様であると指摘していました(中国の道路建設会社の提案では数分の一になると聞かされているそうですが、これはこれでどこまで信用できるのか不安もあるそうです)。また、高機能な日本の装備を政府援助で与えられても、保守する技術者の確保や補修部品の調達が難しいため、故障や破損が起きるとそのまま放置されて「宝の持ち腐れ」になってしまう途上国も少なくないと指摘する国際援助関係者もいました。

ここから明らかなのは、日本の道路事情に最適化した仕様・装備の「道路システム」パッケージを持ち込むのではなく、相手国のニーズや受け入れ態勢に合うように仕様と装備内容を見直し、枯れた技術と現地で調達できる部材や部品で再構成、再パッケージしないといけないという、極めて当たり前の努力が必要だということです。これは道路に限る話ではなく、電機製品などその他の製品輸出で繰り返し指摘されてきたことと通じます。