路線バス経営の改善にはお手本がある

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8月16日(金)のBSニュース 日経プラス10、「ニュース+10」のゲストはイーグルバス社長、谷島賢(やじま・まさる)氏。人口減など厳しい事業環境にさらされている路線バス業界では地方を中心に路線の廃止が相次いでいる。そのような中で路線バス事業を拡大しているのが、埼玉県川越市に本社を置くイーグルバスだ。

谷島社長は東急観光(現トップツアー)を経て1980年にイーグルバスを創業。送迎・観光バス事業から始め、その後に路線バス事業に参入。顧客の要望に応じて走るコースを変更するなど効率化を進めていることで注目を集めている。

2006年4月、地元からの強い要請に応える形で大手バス会社撤退の後を引き継いで、埼玉県日高市を走る生活路線バス事業にはじめて参入。しかし実際に参入してみて自らの認識の甘さを思い知らされる形になった。

日高市は東京のベッドタウンとして発展してきたが、モータリゼーションと少子高齢化の波にさらされ、路線バス利用者は減る一方。かといって、過疎地ではないので行政からの補助金はゼロ。従来通りの運行では赤字の垂れ流しになることは確実だった。観光・送迎バス事業は利益を確保した上での商契約がベースになるが、路線バスは365日遅滞なく運行しなければならず、固定費の塊のような事業である。乗客が少なければ無条件で赤字になる。

引き継いでみてつくづく感じたのは、この事業は中身が「見えない」ということ。だったらこれを「見える化」しようというのが改善のスタートだった。「見える化」する対象は「運行」「顧客ニーズ」「コスト」そして「改善過程」の四つ。

まず「運行」を「見える化」するために、(埼玉大学と協力して)バスの乗降口にセンサーをつけ乗降数をカウント、GPSを利用してバスや停留所の位置情報、時間情報をサーバーに蓄積していった。そしてこうしたデータをグラフ化。たとえば、バスの慢性的遅延時間、乗降客のいないバス停や路線などがひと目で分かるようにした。

ここで気をつけなければいけないのは、路線バス事業は、コンビニのトラック配送のように、最適ルート・時間を追求することで便数や人員を減らすだけが成果ではないこと。顧客ニーズに基づいた「最適化」への視点が必要になる。この視点を忘れて効率化に走ると、使い勝手が悪くなり利用者が減るという負のスパイラルに陥ってしまう。当社は乗客へのアンケートでニーズを探った(車内アンケートやダイヤ改定評価アンケート、地域住民アンケートなど)。それを前述の運行データと掛け合わせながら改善を実施していった。

「見える化」で終わっては意味がない。それに基づき様々な手を打った。乗降客のないバス停や路線の廃止はもちろん、新たなニーズに応じて新停留所を設置することも行った。遅延時間をなくすため、停留所間の距離と時間を細かく調整した(慢性的な遅延は、乗客のイライラ感を増すばかりでなく、運転手の焦りを誘い、事故の発生率を高める)。

とはいえ最初の3年間は失敗の連続だったようだ。高齢者の「電車との連絡がタイト過ぎる」という声に基づいて、乗り換え時間を3分から10分に延ばすダイヤ改正をしたことがあったが、通勤客の不満が募り朝の通勤客の利用率がガクンと落ちてしまった。結局、朝夕は3分、昼は10分に変更すると通勤客が戻ってきた。

そんな試行錯誤をしながら、ダイヤ改正ごとに評価・検証し、改善へのアクションを行っていった。これはPDCAサイクルを回し続けたということだ。その結果、3年目以降は目に見える成果が出始め、引き継ぎ以前の1日750人から850人へと、乗客は100人増えた。10%以上の増加はこの業界では異例である。要は、顧客の利便性と信頼性を高めれば、必ず需要は増える。路線バスも例外ではないということだ。

ところで、高齢化率の高い過疎地住民の悩みはバス本数の少なさだった。同社はコストを上げずに本数を増やすために、ハブ&スポーク方式を導入している。町役場の隣に「ハブバス停」(せせらぎバスセンター)を設けた。空港と同じ原理で、そこから主要駅への路線のみならず大野地区、椚平地区といった過疎地域にはデマンド方式(通勤時間帯は定時運行)で小型バスやワゴンバスを往復させるようにした。これら過疎地域の住民にとって、乗り換えの必要は生じるものの、本数が増えたので利便性は大幅に増した。

さらに、観光客の取り込みに成功したことも相まって、乗客数は再編前に比べて1.2倍に跳ね上がった。このような成功によって、最近では全国からノウハウの提供を打診されるようになった。海外(東南アジア)からの引き合いも来ているそうだ。

しかしこの会社がやっていることは極めて真っ当なことで、特殊なものではない。改善の努力を「見える化」し、そのデータを基に経営を改善する。逆にいえば、地方のバス会社の多くが赤字分だけ補助金をもらうようなシステムの下、これまで真っ当な経営努力をしてこなかったのではないか。PDCAの地道な改善モデルが全国の同業者で実行されることを望む。