被災地発のイノベーションは「過去にとらわれないこと」

ビジネスモデル

4月14日(火)放送のクローズアップ現代は「復興イノベーション ~被災地発 新ビジネス~」。なかなか興味深い内容でした。東日本大震災の被災地に、復興への志を持った地元の若者と外から入ってきた人との新たなネットワークが生まれ、イノベーションが起きているのです。

最初の例は、1粒が最高で1000円にもなるイチゴを生み出した宮城県山元町にある農業法人です。この法人を立ち上げたのは、東京でITコンサルティング会社を経営し農業の経験がなかった岩佐大輝さん、37歳。地元、山元町の出身です。

東北を代表するイチゴの産地だった山元町ですが、津波による塩害で、これまでの露地栽培を続けることは難しくなりました。ボランティアで地元に戻って泥かきの手伝いをしていた岩佐さんに、「社長なんだから、泥かきをずっとやっているのではなくてちゃんとビジネスを持ってきてほしい」と言われたそうです。確かにそうですね。

そして、岩佐さんは自分が得意だったITの分野と、そしてイチゴの分野を掛け合わせたITでフル制御された、新しい本当に先端農業に取り組んできたわけです。一般の農家は、人件費や施設の維持管理など生産に関わる部分に資金をかけています。一方、岩佐さんが重視したのは、イチゴの研究開発やマーケティングでした。

地元の農家が蓄積してきたノウハウ、熟練の技を分析し数値化。それをもとに生産に乗り出しました。3億円の補助金を活用したハウスでは、温度や湿度など、品質を高めるための環境を管理しています。先端の糖度が12度を超えると甘いといわれるイチゴ。測ってみると、15.2度。全国トップレベルの甘さを安定的に生み出せるようになりました。

さらに、イチゴ1粒1粒をパッケージングするなど、高級感を演出。独自のブランド名も付けて売り出し、特別なイチゴだと消費者に訴えることで、1粒最高1,000円のイチゴが生み出されたのです。

国からの補助金を取るのも、かなりの企画書を書かなければならないのですが、岩佐さんは銀行員や弁護士の友達のボランティアのパワーを集結させて取ってきて、そして今、最先端農業を宮城県の山元町で展開をしているわけです。何事も大変ですね。

もう1件は漁業の分野。これまでの常識にとらわれない若手のグループが誕生しています。横浜市内のホテルで人気を集める魚介料理。使われているのはすべて、宮城県で水揚げされたものです。提供しているのは2014年8月に結成されたフィッシャーマン・ジャパン。異なる産品を扱う県内各地の若手漁師たちが集まり、立ち上げました。

グループ結成の背景には、震災のあと、これまで知り合うことがなかったような人たちとの出会いがありました。自分たちが考えていた以上に品質や漁業の持つ価値を評価してくれる声に触れ、これまでの漁業の在り方を変えたいと考えるようになったのです。

どうしたら、自分たちが持つ価値を最大限に発揮できるのか。従来は一般的に地域ごとに漁協などを通じ、市場に出荷していました。その垣根を越え、強みを持ち寄ることで、三陸の海の幸をそろえた日本を代表するブランドを作ろうと考えたのです。そのため、これまでは取る魚が違うため交流があまりなかった若手漁師たちが、グループを組むことにしたのです。

品ぞろえを強みに販路を開拓。直接売り込むことで、例えばわかめは震災前の2倍から3倍の値がつくようになりました。独自のブランドを武器に、海外にも販路を広げています。とても素晴らしい動きです。これが先例として、積極的な試行が色々と広がることを期待したいです。