腹落ちした「“物語”が人を動かす」

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1月7日に放送されたクローズアップ現代は「シリーズ 未来をひらく(2)“物語”が人を動かす」。とても示唆深い内容でした。

地域社会が抱える様々な課題を、人と人との「つながり」を広げることで克服しようという試みが始まろうとしています。これまで市民運動やNPOなどが活動を続けてきましたが、中々活動の輪が拡がらないのが活動家の方々の悩みです。

こうした中、多様な人々を結びつける市民運動を理論化し「分断されたアメリカを一つにした男」として世界的に知られるマーシャル・ガンツ博士(ハーバード大)が来日。日本各地で活動するNPOの代表ら47名を集めてワークショップが開催されました。ガンツ博士が訴えたのは、人々をつなぎ、動かすことのできる「物語」を共有することの重要性でした。

参加者は多様で、結構有名な活動家たちもいます。社会活動家・湯浅誠さん(元・年越し派遣村の村長)、難民支援NPO代表・大西健丞さん(紛争地域での難民支援活動家)、他にも病児保育NPO代表や不登校児童支援NPO代表等々。宮城県南三陸町で被災地支援活動の一環として漁業体験ツアーを主催する佐野哲史さんもその一人です。

ガンツ博士は、リーダーの多くはその責任感からすべてを抱え過ぎていると指摘します。求められるのは周りの人を巻き込み、それぞれが自発的に行動できるよう促すことだといいます。そうすれば活動は雪の結晶のようにつながり広がっていくというのです。自分の熱意は空回りしていただけなのではないか、佐野さんはこれまでの自分のやり方を変える必要があることに気付いたといいます。

マーシャル・ガンツ博士「人はきっかけさえあれば、誰かと思いを共有し、行動したいと願っているものです。そこで信頼を結び、関心を持ってもらえれば、また別の人へと自然と活動は広がっていきます。一人一人の力は弱くても、それらがつながれば、大きな力となっていくのです」。

ガンツ博士は、人々に行動を促すには心に訴えかける物語が必要だといいます。「相手に行動するきっかけや勇気を与えるのが『物語』です。いくら立派な活動でもそれがなければ、誰もついてきてくれません」。

ガンツ博士によれば、物語には3つの要素があります。自分はなぜこの活動をしているのか、背景を語る「セルフ・私の物語」。その価値観を相手と共有する「アス・私たちの物語」。そしてなぜ今、行動に移さなければならないのかを伝える「ナウ・今の物語」です。Self/Us/Nowですね。頭文字だとSUNです。

ガンツ博士「人々が行動を起こしてくれるのは、理念ではなく感情に響いたときです。大事なのは、自分を
突き動かす動機。その根底にある価値観を言葉で表し、相手と共有することなのです」。ガンツ博士はまず「セルフ・自分の物語」を語ることから共感は生まれてくるといいます。参加者も次第に納得していく様子が分かりました。

このワークショップは市民運動やNPOの人たちを想定したものでしたが、企業での変革活動にも同じようなことが云えるのではないかと感じました。一般社員に伝える際にはこうしたストーリーで伝えることに腐心してきましたが、そもそも中核となるべきメンバーにいかに共感してもらい、自発的に参加してもらうのか。それが最初のハードルです。難しさを熟知しているだけに、とてもよいヒントをもらったと思います。