米国の保守派のジレンマ

グローバル

コネティカット州ニュータウンの小学校での銃乱射事件を受け、米国での銃規制を巡る動きが目まぐるしい。銃購入者の身元調査を強化する銃規制強化法案が先日上院で否決された。規制推進派のオバマ米大統領は、拒否票を投じた上院議員らを非難した。そのうえで「この取り組みは終わらない。これは1回戦にすぎない」と語り、引き続き銃規制強化を目指す考えを強調した。

今回の法案は国民の支持も高く、内容も妥当と考えられていた。採決を求める直前のオバマ氏の演説には法案が通るだろうという確信さえ感じられた。それだけにオバマ政権と規制推進派の人々にはショックだったのではないか。全米ライフル協会(NRA)の底力を観た思いがする。しかし大きな社会的流れは銃規制を強める方向に動いているように感じる。

米国の政治イシューは日本のそれとはかなり異なる。伝統的価値観に基づく「保守対リベラル」という分かりやすい構図が成り立つ大きなイシューが幾つかある。代表的なものが銃、中絶、同性結婚、不法移民である。いずれも保守派(主に共和党支持層)とリベラル派(主に民主党支持層)の開きは年々大きくなっている感じがする。

大多数の国民は「まっいいか」的にリベラルなほうに少しずつ移りつつあるのに、保守派の一部がより頑なになって極端な反対論を叫ぶ。後者の一部は追い詰められて過激行動に出るケースがあり、それが余計に大多数の市民の反感を買い、両者の溝が拡がるという構図である。米国の報道番組やサイトではこうした観点での分析が多くなされている。

銃規制については冒頭に述べたように、規制反対派(これも田舎の保守層には根強い支持がある)がせっせと手紙を書き、NRAに雇われたロビイストが首都ワシントンで活発にロビー活動を行い、「そもそも連邦政府が、憲法で保障された、銃を保持する国民の権利に介入すべきではない」と議員に働き掛ける。過激派の連中は規制推進派の議員宅に脅しの電話(「月夜の晩ばかりじゃないぞ」という類)を掛けまくる、という感じである。毎年のように銃乱射事件による大量殺人事件が起きても、である。

中絶や同性結婚に対する規制は逆に保守派が仕掛ける。連邦レベルでは中絶は認められた医療行為なのだが、田舎の州では現実的に医院を開業・運営維持できないようにとんでもない条件を課すなどの動きが近年あからさまになっている。保守派の動向を左右するまでになってきたティーパーティ(草の根保守運動)の主流派の論理では、「中絶は人殺しである。たとえ強姦されたとしても神様の思し召しだから中絶すべきではない」といった調子である。さらに酷いのは中絶を行う医師に対する脅しや嫌がらせ、中には過激保守派による殺害も時折起きる(これも一種のテロであるが実行側の論理では「人殺しを殺すだけだ」となる)。

しかしこういった過激保守派の動きや一部保守派の過激な発言は、保守派の牙城・共和党を利している訳ではない。むしろ逆である。(日本で人気が高い)オバマ氏の支持率は既に低落傾向にあるが、民主党対共和党で見ると、民主党支持率が(一時の対オバマ失望による低迷から)復活、漸増傾向にある。

もともと白人・男性優位である米国社会の伝統的な価値観を呈した共和党は地方に強く都市部に弱いのだが、女性の社会的進出が進み、世代交代が進み、有色人種(特にヒスパニック系)人口が増えるにつれ、民主党有利の流れは止まらないと云われてきた。それが過激保守派の暴力行動やティーパーティらの非現実的な論調により、女性・若者・有色人種の共和党離れを加速しつつあるのが、今の米国社会の様相のようだ。共和党の悩みはますます深刻化しているようだ。