秀吉の刀狩りにみる、「渋る相手の説得」術

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4月30日(火)放送の「知恵泉」(NHK Eテレ)は「新規プロジェクト必勝法 第5回」として、豊臣秀吉の「刀狩り」を採り上げた。農民から武器を取り上げ安定した統治を行おうという狙いだが、農民がおいそれと応じるはずがない。渋る農民をいかに納得させたのか。「人たらし」秀吉ならではの秘策を辿る、実に濃い30分だった。

豊臣秀吉の刀狩りは、農民を農作業に専念させる「兵農分離」を目的とした、平和な社会を目指す極めて重要な施策だった。しかし中世社会においては「自分の身は自分で守る」もの。「7人の侍」に見るように盗賊や近隣争いは日常茶飯事、時には領主に対しても一揆で対抗した(だからこそ施政者側としては農民から武器を奪うことが必要だった)。刀は家や財産を守るための道具であり、そう簡単に手放せるはずがなかった。

そこで農民出身ゆえに農民の心理が分かる秀吉は、渋る相手に硬軟取り混ぜたやり方で、刀の供出を迫ったことが検証される。

知恵その1は「その気にさせるメリットを用意すべし」。大義名分は当然ながら、「全国統一がなされ平和な時代が来たのだから、安心せよ。お前たち農民の安全はワシ達、政権にある武士が守る」と呼び掛けた。その上で、供出された刀は、方広寺(ほうこうじ)に建立される大仏殿の釘やかすがいとして使うとされた。刀を供出した者には大仏と縁が結ばれ、来世の極楽行きが約束される、という信仰心の篤い百姓たちにとって魅力的なメリットを訴えたのである。

当時、奈良の大仏は焼失しており、世の中に大仏が存在しない時代である。その大仏を再び建立しようと宣言したのが天下人の秀吉であり、その一大社会プロジェクトに庶民も参加できるぞと訴えたわけである。実にうまい。

知恵その2は「目立つところで実績をつくれ」。全国で刀狩を実施する前に、世間の注目を浴びる刀狩りを演出している。一大武装勢力だった真言宗の総本山・高野山に圧力をかけ、「自主的に武器を差し出す」ように仕向けた。圧倒的な兵力による脅しに屈し、さしもの高野山も「今後は仏事に専念する」と命に従った。それに対し秀吉は「自主的に」従ったことを評価し、今後の保護を約束する。一方、高野山と並ぶ宗教勢力である根来寺は刃向ったため、徹底的に弾圧した。この扱いを見て、他の宗教勢力も大人しく従ったという。

知恵その3は「相手に合わせた戦術をとれ」。キリスト教徒の多い肥前においては特に念入りに行うため、実にあざとい方法も用いている。刀狩りに先立って鑑定士である刀匠を派遣し、「名刀を買いに来た」と宣伝させる。農民が持ち寄ってくる刀を片っ端から調べて、銘と持ち主を記した詳細なリストを作成。それをもとに100人近い役人が効率的に根こそぎ刀を摘発し、その地域だけで16,000本も没収したという。

一方、全国一律ではなく各地域の事情に合わせケースバイケースの対処を許す。例えば平戸では武家の奉公人には帯刀を許す。山間の若狭ではイノシシ狩り用に槍10本に限りOK。筑前・箱崎郡では宗教用の宝剣は問題なしとしている。こうして免許制にして刀を完全にコントロール下に置いたのである。

さすが秀吉と思わせる、「渋る相手を説得し従わせる」ためのあの手この手である。こうした秀吉の知恵を是非、現代の米国で「銃狩り」を実施するために活かせないものかと思う。そうすれば、病んだ銃社会である米国社会も日本のような平和な社会に変わることができるのではないか。

ゲストの元外交官である宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)の最後のまとめがよかった。秀吉の成功は「戦術の組み合わせ」と「戦略のブレなさ=しっかりとしたグランドデザインの存在」であったことを指摘し、外交の場では「99%まで正直でないと交渉はできない。しかし最後の1%で互いに理解しながら嘘をつく/騙されたふりをすることで交渉は成立する」というコメントは実に深い。