砂漠の中のエコシティは未来先取りか、幻想の街か

グローバル

3月18日(火)に再放送されたBS世界のドキュメンタリー『マスダール・シティの挑戦~砂漠の持続型都市~』を録画で観ました。アラブ首長国連邦(UAE)の首都・アブダビ郊外の砂漠の真ん中に出現した町はゼロエミッション。すなわち自給自足の最先端のエコ学園都市を作る、という話でした。とても夢のある都市計画でなかなかワクワク感がありました。

世界中でエコシティの実証実験は進んでいますが、ここのは規模が大きい(約40平方キロの敷地!)のに驚かされます。市の建設は7段階に分かれ、すでに第1段階が終了。2025年にすべてが完了すれば、研究者など居住者4万人と通勤者5万人、計9万人の都市が出現します。世界の関連企業1500社が進出を予定し、アブダビの研究所や大学もここに移るといいます。

第1期プロジェクトは、マサチューセッツ工科大学の支援で設立されたクリーン・エネルギー技術の高度研究機関マスダール・インスティテュート(大学院レベルの学生約600人が研究を始めています)の建設。 研究施設と関係者が暮らす居住区域、エネルギー自給の運用が既に始まっているのです。

中東といえば砂漠≒強烈な太陽。すでに2009年に1万キロワットの太陽光発電所が完成しており、マスダール電力によると、この3年間の発電量は3600万キロワット時。アブダビで走る車3300台が排出する二酸化炭素2万4000トン分の削減を可能にする量だといいます。研究所などの施設の屋根には計1000キロワットの太陽電池が取り付けられています。現在これらを合わせた11千キロワットの太陽光発電のうち約4分の1が施設や進行中の建設に使われています。市完成後には30万キロワットの電力が必要ですが、クリーン・エネルギーで100%供給を目指しているとのことです。

ソーラーパネルによる太陽光発電だけでなく最新鋭の太陽熱発電も2009年に完成(開発したのは東京工業大学の玉浦裕教授。コスモ石油がUAEと折半で投資したそうです)。100キロワットのビームダウン式集光太陽熱発電です。ヘリオスタットと呼ばれる鏡を塔の周辺に大量に設置し、高さ20メートルの塔に取り付けられた鏡に光を反射させます。光は塔の下部にある集光器に再反射され、それによって得られた高温(600度!)で蒸気タービンを回し、発電する方式です。

交通も、同市内ではガソリン車は禁止。敷地内は、路面に埋め込まれた磁石に誘導されて走る4人乗りの「人員高速輸送システム」(PRT)が張り巡らされるそうです。運転手なしで動く一種のEVです。車内に取り付けられたパネルの行き先を押すと、自動で発車。時速は直線で40キロも出ます。「駐車スペース」に入れば自動的に充電されます。いかにも未来都市のイメージです。

また、単に自家発電というだけでなく、熱を遮断しつつ採光できる窓を使ったり、自然の風を生かして街路に涼しい風が吹くようにしたりして、エアコンをできるだけ使わずに快適に暮らせる街づくりを目指すものでした。“目玉”の一つが「風の塔」。上空にある比較的冷たい風を中庭に流し込む装置です。高さ45メートルの円筒状の塔の天辺から風を流しこみ、頂上付近にある羽根板で風の向きを調整、途中で霧によって冷たくされた空気が流れ落ちる、という仕組みです。建物の壁は、エンジンの外部と似た横縞模様に見えます。これは日中、太陽の熱の吸収を抑え、夜に放熱を容易にする工夫です。壁の素材にも同様の効果を生む軽い素材が使われているといいます。

また、敷地内に建てられたリサイクルセンターでは、廃材がコンクリート、木材、金属などに仕分けされ、建設で生じた廃棄物の96%を進行中の建設に再利用しているといいます。掘削された土も埋め戻すため、保存されています。

アブダビ同様、この街もペルシア湾の海水を淡水化して利用しているのですが、その過程でかなりの電力を使ってしまいます。そこで、逆浸透法と呼ばれる最新の海水濾過技術を取り入れ(多分、東レの)、太陽光エネルギーだけで水を供給できるようにしているのです。

ちなみにマスダール・シティを建設するのに15億ドル(約1.5兆円)かかったということです。オイルダラーのなせる業ですね。他の国ですぐに模倣するのは難しいでしょう。