異色の地域共生戦略を進める「ふくや」の覚悟

ビジネスモデル

弊社が支援するあるプロジェクトが始まろうとしている。地域創生、地域との共生が大きなテーマになるものだ。今回は異色といえば異色だ。

5月26日に放送されたカンブリア宮殿は参考になった。題して「“信頼”が商売を広げる!博多名物を生んだ『ふくや』感動経営術」。そう、あの辛子明太子の本家、「ふくや」だ。

「博多名物・明太子」は福岡県内だけで150以上のメーカーが切磋琢磨し、味を競い合っているそうだ。その「明太子」激戦区で売上NO.1に君臨するのが、地元客からの絶大な信頼を得ている「ふくや」。実際、地元の知人に言わせると「別格」だそうだ。

この番組で知ったのだが、実はこの「ふくや」は、試行錯誤の末に生み出したオリジナルの作り方を特許を取らずに地元のライバルメーカーにも無償で教えることで「明太子」を博多名物に育てあげた地元貢献企業でもあるのだ。

創業者・川原俊夫氏は敗戦後、韓国の釜山から引き上げ、食料品卸の店を始めた。氏は「皆に喜んで食べてもらえる惣菜を作りたい」と、幼い頃に韓国で食べた「スケトウダラの卵のキムチ漬」をヒントに試行錯誤を繰り返し、10年近い歳月をかけて、現在の明太子の原型となる「味の明太子」を生み出したのだ。しかも凄いことに、彼はその作り方を独り占めせず、ライバル店に惜しみなく公開していった。そのことで作り手が一帯に広がり、明太子は博多名物になったのだ。

戦争で生き残った体験から、俊夫氏は残った命を「地域の人への恩返しに使いたい」と強く考え、「ふくや」を起業したのだという。だから地域を発展させる手段として自らが考案した明太子の作り方を広く公開したのだ。素晴らしい精神だ。

そんな創業者の意思を受け継いだ4代目社長の川原正孝氏も、その信念を貫いている。「地域への恩返し」を行うためには、会社は存続しなければならない。そしてその理念を実現するために「ふくや」が選んだのが、地域との共生戦略だった。

地域と共に成長することを目指す「ふくや」は今、福岡だけでなく九州全体を地元と捉え、共に成長を目指す新たな仕掛けを打ち出している。その舞台が「ふくや」のルーツでもある食料品卸から派生した業務用スーパー「たべごろ百旬館」だ。

ここには「ふくや」のバイヤーが集めてきた九州各地の珍しい食材がズラリと並ぶ。客の大半はプロの料理人たち。彼らにその食材を使ってもらうことで、地元住民や観光客に「九州の新たな食の魅力」を広めていこうという狙いだ。さらに、こうした地域の飲食店とのつながりを活かして生産地の応援にまで乗り出していた。

民間企業でありながら地域との共生を戦略のベースに置く。自治体や金融機関以外には、なかなか口で言うほどたやすいことではないが、こうした経緯がある会社であれば信用される。今後も注目したい。