独り立ちを余儀なくされた元下請けの意地と奮闘

ビジネスモデル

2月20日放送のカンブリア宮殿は、「下請け脱出スペシャル!未来は自分の力で切り拓け!」と題し、2つの元下請け会社がフィーチャーされました。いずれも発注元の業績不振や海外生産移転で仕事がなくなり、存亡の危機にさらされた会社です。こんな立場に追い込まれて事業を畳んだ下請け中小企業は世の中にわんさとあります。でもこの2社は諦めませんでした。

1社めはオオアサ電子というオーディオ・メーカー。広島市の郊外、北広島町大朝という小さな町にある小さな会社です。料亭を改装したショールームに置いてあるのは、1組2本で26万円超という高級スピーカー。音を出す構造が違うために自然な音の再生ができ、ハイレゾ再生も可能なために脳の活性化にもよく、グッドデザイン賞も獲得しています。来場者の多くが1時間以上かけて実際の音を聴き、購入を即決するということです。ブランド名は「エグレッタ」(白鷺)。

1983年に設立したオオアサ電子は簡素なLED部品製造からスタート。そこから液晶技術を伸ばし、国内外の高級車の内装部品製造を請け負うように。2008年には約10億円にまで年商を伸ばしましたが、翌年、売り上げの8割以上を依存していた取引先の自動車部品メーカーから「中国に委託先を替える。1年後までに取引をゼロにする」と告げられたのです。絶望的な状況です。

廃業の不安が広がる中、みんなで出した答は、下請けからの脱却。まず挑戦したのが自社製スピーカーの開発でした。実はCD再生装置など、音響関係の仕事も20数年前からやっていたのです。2年がかりでスピーカーを開発、2011年に発売にこぎ着けます。下請け部品メーカーが、完成品メーカーに生まれ変わったのです。それがエグレッタでした。製品命名の日、会社の正面にはたまたま本物の白鷺がいたそうです。

スタジオに招かれた長田社長がコメントしていましたが、「親会社」から切られる前、不気味だったと云います。その自動車部品メーカーは、物作りの話ではなく中国製品と比べてのコストの話しかしなくなっていたそうです。中国に委託先を替えた後、そのメーカーは果たして生き残りの道筋に乗ったのでしょうか。本来の強みを失ったまま、途上国をさまようジプシーになったかも知れません。

さらに得意の液晶パネル技術を応用した、スマートフォン用カバーガラスを開発。特殊な加工を施し、強い衝撃を与えても容易には割れず傷もつきにくい、凄い製品です。番組では実際にカバーガラスを貼ったスマホをハンマーで叩いたり、カッターで切ったりしていましたが、傷一つ付かない様子が映されていました。2013年秋からネット直販を始めたのですが、細々と売っていたに過ぎません。しかし製品を知ったソニーマーケティングとのビジネスが急展開しようとしています。待ちの姿勢から、自ら攻める姿が運を引き付け始めた、小さな企業の挑戦です。

2社めは福井県越前市(旧武生市)にあるモーター専門のメーカー、TOP(トップ)です。元々はパナソニックの100%子会社、武生松下電器です。家電製品に組み込まれるモーターを製造する工場でしたが、親会社の生産拠点の海外移転に伴い、2003年には会社の清算が決まりました。

しかし地元で仕事を続けたい社員が立ち上がり、製造現場の中間管理職3人が資本金1000万円を出し合って新会社TOPを同年10月に設立。土地や設備などを松下電器から借りる形ながら、大企業の資本なしでの再出発となったのです。旧会社時代は課長だった山本惠一氏は出資メンバーに名を連ねて役員となり、後に社長の座を引き継いでいます。

TOPは長年培ったモーター製造技術を生かして、新たなビジネスを見つけ出そうと動き始めました。ある取引先との出会いをきっかけに家電向け以外のモーターを開発、それを起点に新たな顧客を少しずつ開拓していったのです。

しかし2008年、第二の試練に見舞われます。リーマン・ショックの余波で受注が激減したのです。当時は糊口をしのぐため、社員でコメ作りまでしたそうです。2013年になって大きな光が見え始めます。ハイブリッド後発の富士重工が、既存の車体構造を変えずに済むよう、TOPにハイブリッドエンジン用の、小さくてパワフルな専用モーターの開発を依頼したのです。しかも他のメーカーなら10年掛けるところを4年で。開発には悪戦苦闘したようですが、それが新型車に搭載され、予想以上に大ヒットしたのです。月産800個で始まったのが、今や3000個。24時間体制の製造で嬉しい悲鳴です。

こつこつと実績を上げ、取引先も増やしてきた結果、TOPのパナソニック以外の売上比率は今や4割にまで増えています。2013年11月に開催された東京モーターショーでは電気自動車(EV)を出品するまでになったのです。自分たちの技術力を武器に、新たな可能性を模索。大企業という大樹の下から一歩踏み出し、自分たちの足で歩み始めようとしているのです。