牛丼「三つ巴の消耗戦」、再び

ビジネスモデル

吉野家が10日、牛丼の「並盛」を今月18日から100円下げて280円にすると発表した。「並盛」を250円の安売りで先行していた、競合のすき家や松屋を追いかける格好である。吉野家の「並盛」が280円になるのは、BSE問題で牛丼の販売を止めた2004年以来、9年ぶりだという。

この対抗値下げは戦略的に考えて行われたものか、それとも単に追い込まれて打った「苦し紛れの手」なのか。答は後者である感が強い。同社の安部社長のコメントがそれを裏書きする。「従来の価格では、満足できる売上数に届かなかった。客が求める価値のうち、今は『価格』が最も大きい要素だ」と。要は「競合が安売りしていて、そちらに客を取られているから、対抗上こちらも値下げせざるを得なかった」ということだ。

ここで考えるべきは、この値下げによって売上は多少回復するだろうが、利益は増えるのか、それとも減るのか、である。確かに牛丼は価格弾力性の比較的高い商品ではある。しかし、これほど度々値下げキャンペーンを繰り返し、しかも競合店の多くが先行して値下げしている場合、売上向上効果は飛び抜けて高くはない。仮に高めの20%Upとしよう。

牛丼の粗利率がすごくよいとして、仮に50%としよう。つまり元の価格380円に対し粗利が190円あるということだ。しかし価格を380円から280円に下げると、原価190円は変わらないので粗利は一挙に90円に縮小する。すると数量が1.2倍となっても、結局粗利は大幅に失われる(56%に縮小する)。もちろんコスト削減の努力は進めるだろうし、来客に対しサブメニューを勧めることで少しは取り戻すだろうが、44%の粗利を取り返すことは到底無理だ。つまりこの価格政策には戦略が欠如している可能性が高いということだ。

以前にも牛丼業界は、値下げ競争で3社とも売上が拡大しながら収益が悪化した経験があったはずだ。当初は期間限定キャンペーンだったはずが、チキンレースの様相を呈してしまい、互いに止められなくなったと記憶している。またその消耗戦が始まるのである。

しかも前回は円高過程にあったお陰でコストダウンが効いたはずだが、今回はエネルギーコストが上がっている最中である上に円安方向に動いているため原料価格も相当上がってくるだろう。3社とも体力を相当すり減らすことになるのは間違いない。特に牛丼が売上に占める比率が圧倒的に高い吉野家の分が悪い。

さてここで注目すべきは牛丼業界内だけではなく、同じようにランチ向けの財布の中身を争うファストフード業界での動きである。具体的にはマクドナルドに注目したい。原田社長の就任以来初の赤字決算を経験しながらも、同社は「安売りバーガーからの決別」「定番商品による収益確保」を宣言している。多分、同じ材料を使いながら目先を変えたキャンペーン商品は出してくるだろうが、もう「100円バーガー」の愚(同社のブランド価値の極端な低下)は犯さないのではないか。

半年後、1年後の結果が楽しみだが、小生はマクドナルドの収益アップと吉野家の極端な収益ダウンを予想している。