法人税率引き下げ論議に思うこと(その1)

ビジネスモデル

法人税の実効税率引き下げに向けた議論が始まっています。安倍首相の法人税率引き下げ方針に対し、経済界は総論的には歓迎です。でもその財源をどこに求めるかの各論で異論が噴出しています。政策減税(研究開発や特定業界向けなど)の見直しや減価償却制度の見直し等々、活発な議論が展開されています。

規模は大手ながら赤字を“ねん出”して税逃れをしている企業も多いところから、外形標準課税の強化が最近は注目を浴びています。要は規模に応じて様々な社会サービスの恩恵を受けているのだから、多少の赤字でも税金を払いなさいよ、という話ですね(気持はよく分かります)。現実問題として、身内である役員や役員の関係会社に多額の費用を支払うことでわざと赤字にするという“節税”手口が大いに使われている話も聞きます。

もう一つ注目されているのは欠損金の繰越控除の期間短縮です。これは大手銀行や再生企業が巨額の黒字を計上していながら、過去の赤字決算による欠損金を繰越すことで税金を払わずに済んでいる、そして役員・従業員が多額の報酬・給与を得ていることへのやっかみから来ているようです(こちらも、気持はよく分かります)。

こうした「税逃れ」や「不公正」の穴をふさいで、少しでも法人税を国際水準まで引き下げることで、日本企業が海外に逃避することを防ぐ、もしくは海外企業が日本に進出することを促進する、という狙い自体はもっともであるとは小生も思います。

ただし、法人税率引き下げに過度な期待をすべきではありませんし、これが最優先政策の一つだというのは甚だ見当違いです。日本に本社や事業所を置いておくことにメリットを見出さなくなった企業が、税制次第で心変わりするかというと、そんなことはありません。

大半の企業は、どれほど顧客と密接につながることができるのか、その国の人材採用・維持の観点で有利になるのか、開発など致命的に重要な機能を持つ拠点となるのか、オペレーション・コスト的に合理的なのか、といった観点で、その国に(アジアの)本社を持つのか、重要で大規模な事業所を開設するのか、といった判断を決めます。税制はその次のレベルの判断基準です。

したがって税制をいじることのみ一生懸命になり、この国でオペレーションすることで儲かる構造にすることをなおざりにしてしまっては本末転倒です。そのためには(1)規制緩和の実現と、(2)エネルギー構造転換を思い切って進めることが、税制改革以上に大切だと思います。前者によって各領域でのビジネスチャンスが生まれ、後者によって産業全体のコスト競争力が上がって同時にやはり多くの企業にとってのビジネスチャンスが生まれます。

安倍内閣は(原子力発電に拘る点を除けば)この2点に比較的前向きに推進しようという姿勢に、今のところ見えます。法人税引き下げ論議に政権の体力を使うよりも、こうした「成長戦略」のど真ん中の改革に加速度をつけて欲しいところです。