歯の予防に捧げた歯科医の魂

ビジネスモデル

最近、ようやく歯の治療に行った。普段からケアはしているほうだが、元々の歯並びがよくないせいで、時折の治療は欠かせない。

1月28日 放送のカンブリア宮殿は「予防すれば虫歯ゼロ!ニッポンの歯科を変える歯医者さん」。この日フィーチャーされたのは医療法人社団日吉歯科診療所の理事長、熊谷崇(くまがい たかし)さん。

人口11万人の山形県酒田市に、市民の1割が通う日吉歯科がある。総勢50人のスタッフが酒田市民の歯を守るこの診療歯科は熊谷が35年前に開業した。この歯科診療所は他の歯医者とは根本的に考え方が違う。

通常の歯科医は、虫歯などの不具合が生じた口腔内の治療が役目だ。つまり「故障」を直すのだ。それに対し熊谷さんは、虫歯ができる仕組みを患者に理解してもらい、ケアを徹底する「予防治療」を推し進めてきたのだ。その効果があって、酒田市民は年3回ほどここに予防治療(メンテナンス)に通う。

初診の患者も、応急処置以外の虫歯治療は受けない。初診の患者がまず会うのは医師でなく、歯科衛生士たち。この歯科衛生士が、予防で大きな役割を担っている。

過去の虫歯治療のチェックや唾液・虫歯菌の検査を行い、虫歯がなぜできるか、予防はどうすれば良いか患者に徹底的に教える。1人の衛生士は、初診からずっと同じ患者のケアを担当する。この体制が患者との信頼関係を生み、メンテナンスに通うリピート率も上がる。20歳までの酒田市民の虫歯の本数は1本以下だという。

ちなみに健康保険は予防をカバーしていない。1回約1万円の治療費は全額患者負担になる。しかも、すぐに虫歯を治療しない「予防治療」スタイルには、開業当初は苦情が殺到したという。「歯磨きの仕方を習いに来たのではない」と。しかし熊谷さんは信念を曲げず、虫歯に関する手作りの資料を渡し「予防」の必要性を訴え続けた。その結果、今やその理念は酒田に根付き、親子3世代で通院する家族もいるとのこと。大したものだ。

さらに熊谷さんは地元小学校も虫歯の予防教育に力を入れている。日吉歯科では25年前から、予防診療を学びたい歯科医や歯科衛生士のための研修を毎月行なっており、今までに全国から約2000人が参加。彼らは地元に戻り、予防治療に打ち込む。

だが、従来の治療と違う予防診療には患者も戸惑うのは今も同じ。熊谷が直面した壁に、歯科医たちも悩まされているそうだ。しかし確実に予防治療は広がりつつあるというのも感じさせる。

「日吉歯科診療所」という看板から推測できるのは、実は熊谷理事長が昔は我が地元の日吉で開業していたのではないか、そして何かのきっかけで酒田市に移転してしまったのではないかということ。もし日吉にこんな素晴らしい歯医者がいたなら、まめに通ってメンテナンスしていたのは間違いない。そうしたら数本の歯を無くしたり虫歯にしたりすることを避けられたかも知れない。残念極まりない。