東南アジア進出熱に「浮かされる」中小メーカーのリスク

グローバル

海外進出が自己目的化していないか?営業先の開拓やロジスティクスなどの問題は考えてあるだろうか?

長く続いた「超円高」をはじめとする「六重苦」の結果、国内になんとかしがみついていた中小メーカーが、この数年の間に雪崩を打つようにアジア新興国に進出を進めている。一時は中国に集中していたのが、その矛先が昨年からは一挙に東南アジアへシフトしているのは周知の通りだ。お陰で東南アジアの工業団地の開発・運営業者(総合商社など)は商売繁盛だそうだ。

しかし当然ながら、工業団地に入ることはスタートに過ぎず、事業の成功とは別問題だ。東南アジア進出を決断した中小企業(および融資元の金融機関)の一部に聞いた限りでは、彼らの海外進出計画には往々にして大きな疑問点が残る。その代表的な例として、(1)営業先の開拓、(2)延びるロジスティックスという2つを挙げよう。

海外に生産設備を新たに立上げようというのだから、よほど需要の引きが強いのだろうと想像しがちだが、実は必ずしも需要先を確保して進出しているわけではない。「親会社(=最終製品のメーカー。資本関係はないことが大半)の工場が先に出ていってしまい、国内に留まっていても仕事が回ってこないので、(需要先を確保できていなくとも)海外に出るしかない」というコメントが意外と多いのだ。半ば開き直りとも取れる決断である。先行して海外進出した旧「親会社」は、現地で別のサプライヤーを既に確保している可能性が高い。日本で長年取引をしていたからといって、現地でも仕事をくれるとは限らないのである。

もう一つはロジスティクスの問題だ。現地で生産する部品などの納入先がすべて現地近くにある場合は問題ではない。しかし日本から海外拠点に完全に生産をシフトした上で、日本にいる顧客への納入がかなりの割合で残っている場合には、相当なリスクを抱えることになる。一挙に兵站が延びてその途上に抱える在庫が増え、しかもリードタイムも同様に延びるため需要変動に対応するのが難しくなる。

これらは今度の「東南アジア進出セミナー」でも典型的なリスク例として解説するつもりだ。
https://www.insightnow.jp/applications/id/269

さて為替相場は急に円安に変わってしまったが、中小企業の海外進出熱はそう簡単には冷めないだろう。「親会社が海外シフトしてしまった」今、待っていても仕事を確保できるわけではないからだ。しかし中小企業経営者に考えて欲しいのは、自らの強みを活かせる事業モデルをまず考えて、その戦略に合う場合に東南アジア新興国への進出をその実現手段として検討することだ。決して盲目的に「まず海外進出する」ことではない。