日本の養殖業の再生にはマーケティング組織が必要

ビジネスモデル

6月19日(随分遅い!)放送の「クローズアップ現代」は「養殖ビジネス 国際競争時代~日本の活路は~」。日本の養殖業がこんなに追い詰められているなんて知りませんでした。

衰退を続ける日本の漁業。そのなかで養殖漁業は、海外輸出も視野にいれた今後の成長の柱として期待を集めてきました。魚の養殖技術で世界をリードしてきた日本は、世界で初めてクロマグロの完全養殖にも成功したと報じられたのを覚えています。

しかし現実には、新たな消費者をつかめず国内生産量は減少。近年大きく生産を拡大した海外勢に国内市場すら奪われ続けているのです。今やスーパーや寿司店に並ぶ魚の多くが海外養殖モノというのが現実です。日本で1、2を争う養殖ヒラメの産地、大分県佐伯市の様子が番組で映されていました。地元の養殖業者が仲間と工夫を重ね、2年がかりでかぼすの成分を浸透させる方法を開発したのです。その結果、通常のヒラメよりも最大でキロ当たり800円余り上乗せした取引価格を実現しました。

この努力の背景はまず長期にわたる国内市場の縮小です。それに加え、海外からの安い養殖ヒラメの流入、特におよそ2割も安い韓国産が輸入された結果、国内産ヒラメの市場では値崩れが起き、生産量は97年をピークに半分以下にまで落ち込んだのです。

高い養殖技術を持ちながら生産量が伸び悩む養殖業者が今、全国各地で増えているのだそうです。養殖カンパチで日本一の生産量を誇る鹿児島県垂水市の様子が映されていました。
漁協では水揚げしたカンパチをその日のうちに出荷することで新鮮さを売りにしてきました。しかし国内需要の冷え込みによる価格低迷で、この5年間で養殖業者の3割が廃業に追い込まれています。

国は養殖業の生産管理の仕組みを3年前から導入しました。魚が供給過剰にならないよう、業者ごとに生産量の上限が割り当てられ、その範囲内で魚を育てるのです。万が一、価格が暴落しても損失は国などから補填されます。限度を超えて生産すると補填はされません。養殖生産に限度を設けるこの仕組みが始まって以来、漁協では生産量をピーク時の6割程度に抑えるようになりました。漁師を守るためとはいえ、産業としてはどんどんひ弱になっていくのは目に見えています。

一方、世界各国では養殖をビジネスと捉え、生産量を急拡大させています。その成功例とされるノルウェーの様子を番組は伝えてくれました。場所は人口3,000人の漁業の町、シャルベイ。従業員200人を抱える養殖会社。

徹底したIT化と機械化を進めており、生産加工から輸出まで1社でコントロール。獲れたサーモンを生のまま36時間以内に日本の市場へ届けます。こうして年間4,000トンを日本に輸出しています。なんとも日本の漁業に比べダイナミックです。

しかもこのサーモン、日本人の好みに合わせて養殖されています。現地での普通の養殖サーモンの色とは違う、日本向けのサーモンの色を出すため、エサの調合などによって色合いを調整しているのです。さらに日本では脂の乗った魚が好まれていることを知ると、サーモンの脂肪の量が増えるように養殖方法も変えました。

レロイ・オーロラ社のCEO曰く「わが社のサーモンは、刺身やスシで食べたときに見た目もよく、おいしく感じられるように特別な方法で育てています」と。きちんとマーケティングしていますね。その鍵になっているのが、国有会社のノルウェー水産物審議会です。マーケティングの専門家が世界各地での市場調査や広報活動を行っています。

生食サーモンの場合、最初から日本市場がターゲットだったそうです。個別の養殖業者がバラバラに行うのではなく、この国有会社がすべての業者から運営資金を集め、一括して日本市場を徹底調査し、PRまで行います。その結果はフィードバックされ、各社の商品開発に活用されます。サーモンを生で食べる文化のなかったノルウェーが、官民挙げての売り込みで日本市場を切り開くことに成功したのです。これがビジネスです。

今では日本だけでなく世界各国に駐在員を配置して情報収集力を強化しています。「日本人が認めたサーモン」として売り込みをかけた結果、今では世界90か国以上に輸出。6,000億円の市場を築き上げることに成功しています。うーん、完全に先を越されていますね。

日本の水産庁は何をしていたのでしょうか、全く。現在、水産庁が考えている生産調整においても、海外への輸出に関しては範囲外となっているそうですが、そもそもどの組織がカネを出して海外マーケティングを行うリソースを確保するのか、全く何も考えられていない模様です。さすが農水省の外庁です。知人が地元水産業の再生を賭けて頑張っていますが、本当に大変だということが想像できます。