日本の水ビジネスの強みは、独自技術に加え、現地を活かす知恵

グローバル

9月8日に放送された未来世紀ジパングは「世界を救う日本の水ビジネス」でした。深刻な水問題に直面する世界各地に安全な水を供給するために役立つ、ニッポンの技術と人々の努力を伝えてくれました。

実は小生も以前から興味を持っており、日本ポリグルなどの活動に関心を寄せていました。http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-144.html
加えて、ある大手企業のこうした分野についての活動のお手伝いをすることになりそうで、一層興味を持ってこの番組を観ていました。

世界の全く異なる3ケ所で、それぞれ中小企業、個人、大企業が現地の水事情を改善しようと奮闘する姿。そしてニッポンの「戦略」が示唆されていました。

1つ目はフィリピンのマニラ郊外。現地では水道を契約している世帯は中流以上で、水道契約ができない家庭ではその水道水を、いちいち買ってポリタンクに入れて自宅に運んでいるのが実態です。しかし、マニラの浄水場から送られてくる途中の水道管や給水タンクの状態が悪いため、水質がかなり悪くなっていたのです。

そんな水道を安全で美味しく飲めるようにするために山梨県からやってきたのが、明和工業。社員13人の小さな会社ですが、砂を使った画期的なろ過装置を開発しました。粗さの異なる砂の層をサンドウィッチのように粗い→細かい→粗いと多重化した構造です。

果たして、それまで塩素が強くてまずい水道の水が、このろ過装置を通すと、非常に綺麗でおいしい水に変わったのです。構造的にもシンプルなので、装置費用もメンテナンスコストも安く済みそうです。途上国のニーズにぴったり適合しそうです。

2つ目はバングラデシュの農村部です。ここに水道は通っておらず、村人たちは井戸水を飲んでいます。しかしバングラデシュの土地にはヒ素が含まれる地域が多いのです。なんと2000万人以上の人が、基準値を上回るヒ素の含まれた水を飲んでいるというのです。そんなバングラデシュで、人々に安全な水を提供できるよう尽力する日本人がいます。墨田区保健所の元職員、村瀬誠さんです。なんと雨水を利用するという驚きの方法です。

バングラデシュではインド洋から蒸発した水蒸気が雲となり、しかも農村部では空気が綺麗なため、雨水に不純物がほとんど含まれていないのです。つまり雨水を貯め、そのまま飲んで安全でおいしいのです(日本でも明治時代の途中までは全国でそうだったはずですね)。しかし井戸水は危険で雨水が安全というのは、まさに「所変われば」です。

村瀬氏は村人たちに、安全な水を確保するため雨どい作りを教え、貯めるための水瓶を販売しています。ボランティアではなく現地の人たちを巻き込んだBOPビジネスとして根付かせようとしているのです。無茶苦茶ローテクですが、現地事情に合った適正なやり方ですね。

3つ目はインド洋に浮かぶ楽園、モルディブです。周りを海に囲まれたこの国でも、飲み水に問題が起きていました。人口増加によって地下水を取り過ぎ、井戸水が枯渇し、海水が混じるようになったのです。

そんな水不足の解消に一役買っているのが日立です。日立とJICAは、逆浸透膜を使った海水淡水化技術で、海水を真水にろ過する施設を完成していたのです。お陰でモルディブでは、水道の水が安全に飲めるようになっていました。さらに日立は、水深800メートルの深海から海洋深層水を取り出し、飲み水に利用するという巨大プロジェクトにも乗り出していました。この壮大な国家プロジェクトが可能なのは、モルディブに観光が生む巨額な資金があることと、日本が支援していることです。

番組の最後に、沸騰ナビゲータ、グローバルウォータ・ジャパンの代表である吉村和就氏の解説がありました(この人、いい声と語り口を持っています)。

世界の水ビジネスは2025年に110兆円規模になると予測されています。その中で日本が狙うアジアの市場はそのうち約30兆円です。しかし、世界にはヴェオリアやスエズなどの水メジャーがおり、さらに韓国・シンガポールなど強力なライバルがアジアに出現しています。これらに対抗するためには、大企業・中小企業・個人などの民間と、事業運営のノウハウを持つ自治体が協力し、官民一体となり進出を狙う必要があると説きます。確かに、従来は各個撃破されていたようですから。

更に重要なのが「ジャパン・イニシアチブ」です。日本が主導権を取りながらも、海外の企業と協力する。現地に雇用を生み、産業を作ることで長期的なビジネスに発展し、日本がアジアの“水メジャー”になる可能性が膨らむという考えです。今回の番組でも紹介されていたように、海外メジャーと一味違う、現地と協業する「日本らしい」戦略を持て、ということでしょうね。