文房具好きの聖地は魅力にあふれている

ビジネスモデル

7月2日(木) に放送されたカンブリア宮殿は「東京・銀座で111年 進化を続ける文房具のテーマパーク」。ゲストは伊東屋社長、伊藤明(いとう あきら)氏だった。

文房具好きの聖地、銀座・伊東屋本店。今年6月に新装オープンし、現在の店の様子と商品、裏手にある別館(万年筆や地球儀などを集めた「大人の隠れ家」です)を併せて紹介してくれた。

伊東屋の魅力は、社員が間違いなく文房具オタクであること。ユニークな商品を揃えた品揃え、ずば抜けた商品開発力(PB商品も魅力的)、接客力(商品知識に基づく対応力)だ。調子の悪くなった万年筆を自分で直せる店員がいるなんて、びっくりだ(小生も伊東屋で万年筆を買ったことがあるが、修理はお願いしていない)。

明治37年に創業した専門店も、1990年代からのパソコンとプリンターの普及によって、主力の取扱商品が大きく変ったそうだ。さらにネット通販が登場し、文房具店を激減させた。いま伊藤氏は「ライバルはIT」と言い切っている。日本一の文房具専門店でも、もはや商品数ではAmazonに代表されるネット通販には勝てない。伊藤氏自身がAmazonのヘビーユーザーとのことで、その脅威をよく理解しているのだ。

そこで伊藤氏が狙うのが、「客が文房具と出会え、文房具と過ごせる店」だ。百貨店のように大勢の人をターゲットにした店作りは止めたという。売りたい商品をイメージし、店にあっても客が気づかずに通り過ぎてしまうことを避けるべく、旧本店に比べて品数を大幅に絞ったという。商品のフェースを見せるためだ。

また、文房具を体験できるように全ての筆記具の試し書きができるほか、グリーティングカードや便せんを店で実際に書いてもらうスペースまで作り、すぐに投函できるよう郵便ポストを店内に設置している。ネット通販に決してできない、リアル店舗ならではの「体験ができる」ことをウリにしているのだ。見事。

伊藤氏は「『品数が多い』ではなく『品揃えが良い』と言われる方が嬉しい」と言う。本店と別館の商品数は9万点に上る、日本最大級の文房具専門店だ。鉛筆なら10Bから10Hまで揃い、ノートの書き味まで試すことができる。万年筆を中心とする高級筆記具が1日に100本売れるのはこの店だけだろう。多分、日本全体の半分以上、いや2/3ほどになるのではないだろうか。

別館の「大人の隠れ家」には大小さまざまな地球儀だけを集めたフロアがあり、他では絶対味わえない感覚だ(小生の娘も「ここ行きたい!」と絶賛だった)。模造紙などの大きな台紙の種類も半端ではない。触って感触を確かめられるのもリアル店舗の強み。客が「ワクワクする」のも無理ない。

番組後半では創業直後から行われている、オリジナル商品の開発・販売について紹介された。いずれもデザインにこだわったもので、代表的な「オリジナル鉛筆」は消しゴム部分と本体を接合する金具を使わないので、一本の木のようにスッキリとした形になっている。

伊藤氏自身もデザインを勉強したため、デザインにはこだわりが強いのだ。メーカー製品のデザインが気に入らないと、伊東屋オリジナルでさらに使いやすさとシンプルなデザインでつくりなおしてしまうほどだ。10人ほどのデザイン研究所を中心にオリジナル文具の開発・制作が常に進んでおり、一部の開発商品が紹介されていたが、ぺんてると共同開発されている、サインペンを中に入れて使うカバーが魅力的だった。

司会の村上龍氏自身も万年筆の愛好家のようで、伊藤氏の万年筆コレクションには目を輝かせていた。