“意外なコラボ”と称された”全く意外でないコラボ”

ビジネスモデル

8月18日に放送されたガイアの夜明けは『”意外なコラボ”が…これまでにない商品を作る!』と題して、メーカーの常識を覆すアイデアでヒット商品を連発する秘密や、それまでにないコラボによって新商品を生み出す現場を追った。

今年4月に全日空が開いた記者会見で、国内線エコノミークラス用に開発された新しいシートがお披露目された。登場したのはスキージャンプの高梨沙羅選手。身長152センチと小柄な彼女が、座り心地をアピールした。「体全体が包まれた感じで、腰もしっかり支えられている。一番驚いたのは、足が床に着くこと」。

実は航空機用シートの市場は、これまで独仏米メーカーの3社がほぼ独占してきた(航空機メーカーのお膝元にいるメーカーということ)。そのため、主に欧米人の体型に合わせてシートが作られていたという。

そこで全日空は日本の自動車シートメーカー最大手、トヨタ紡織とタッグを組み、日本人の体型に合わせたシートの開発に乗り出すことにした。同社は自動車シートではトヨタ車の8割を生産。コンパクトカーから高級車、レース用まで、様々なシートを開発してきた。そうした自動車で培ってきた技術を、航空機シートに生かそうというのだ。

全日空とトヨタ紡織がタッグを組み、3年間かけて開発した航空機エコノミー席用シート。今年5月の初フライトでお披露目されるまでの舞台裏を番組は伝えてくれた。ポイントは、従来の航空機シートメーカーが見逃していた幾つかの点をユーザー目線で改善したことだ。

まず、従来は平べったい構造だった背もたれシートを彎曲させ、背中を包むようにしたこと。これで背中の位置が安定する。次に前後の距離が近いため圧迫感があるエコノミー席ならではの問題である。背もたれの底を斜めにカットすることで、膝の先との間のスペースを広げたのである。

最後に、一番欧米メーカーが気にしないが、日本人などのアジア系の特に女性にとって悩みだった点の改善だ。普通に座った際に足裏が地面にぺったりと着かないため、先のほうのもも裏に圧力が掛かって、長時間では疲れるのだ。トヨタ紡織は自動車シートの開発でこのことを熟知しており、改善の目玉とした。5cmほどシートを低くし、小柄な日本人女性が座った際でも足裏が地面に着くようにしたのだ。

効果はてき面、乗客の女性たちには「楽だった」と好評で、全日空は他の国内路線だけでなく、国際線にもこのシートを採用することを決めたようだ。そしてトヨタ紡織は今後、このシートを航空機メーカーに売り込んでいくようだ。当然である。

それにしても、これが”意外なコラボ”だろうか。もし小生がトヨタ紡織から新規分野の開発を求められていたら、真っ先に航空機市場を提案したろう。むしろ今まで開拓しようとしていなかったとしたら、それこそ不思議な気がする。

確かにトヨタという盤石の顧客が控えているのは分かる。しかし同時にトヨタ相手の商売では収益は対して上がらず、シートメーカーとしてはきっと他のOEM(自動車メーカー)に売り込むことが事業拡大の道筋だったのだろう。

しかしそれも一段落したら、次に狙うのはもっと収益性の高い市場であり、その第一に挙げられてしかるべきは航空機市場である。その突破口が日系の航空会社であるのは凄くいいが、本丸はボーイングやエアバスなどの航空機メーカーであろう。

トヨタ紡織は新事業による事業収益拡大のシナリオを見つけたのではないか。