平成の大合併の後始末にみる自治体の優劣

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クローズアップ現代の4月30日(水)の放送は「平成の大合併 夢はいずこへ」。地方自治体制の底の浅さを見せつけられるような話でした。

「平成の大合併」では全国の市町村が3300から1700に半減しています。そのピークから10年を迎え、合併した多くの自治体では現実を突きつけられ、過去のつけを払う段になっています。合併したら効率化できるはずだということで、元の合計よりも地方交付税が削減される規定です。でも急な減額による混乱を避けるための特例措置によって10年据え置かれてきましたが、その猶予措置が終了、今後5年かけて下げられます。

本来ならこの猶予期間に効率化を進めておかねばならなかった行政システムですが、実際には逆です。「合併特例債」の乱発でハコモノを増やすなど、体制も借金も膨らませているところが多かったのです。

「合併1号」の兵庫県篠山市では職員を3割削減し、給与もカット。公共施設の閉鎖など住民サービスも縮小や廃止を余儀なくされています。子ども向けの博物館は1年のうち3か月しかオープンできなくなるなど、予定された事業が次々と見直しを迫られる事態になっています。なぜこうなったのか。当時4つの町が共同利用していたゴミ焼却場や斎場の建て替えのための100億円をねん出するためでした。その2つは実際に建設されていますが、それに止まらず、利用できる特例債の上限230億円のうち200億円を使って市民センター、温泉施設図書館、温水プール、博物館など、合併前の自治体ごとに次々とハコモノを建設していったのです。その挙句の実質的破綻ですから、愚かとしか云いようがありません。

これは典型的な例に過ぎず、多くの自治体でも同様に、職員削減および職員給与の削減で足らずに、サービスの切り捨てや民間への丸投げが批判を呼んでいます。なりふり構わずです。しかし合併と借金を決めた幹部たちは早々と定年退職をして年金生活に入っているのですから、いい気なものです。可哀そうなのは現役の職員たちと、事態をよく分からないまま振り回されている住民たちです(監視が不十分だった責任はあります)。

ではそもそもなぜ、各自治体は合併にまい進したのでしょう。トータルすると地方交付税が削減されることが分かっていながら。当時国は、合併すれば職員の削減や公共施設の統廃合が進み、自治体の財政が強化されると謳っていました。これは地方交付税を削減したい国の視点での話で、自治体側が真に受けたとも思えません。多分、役所の幹部たちは自分たちは引退するので10年も先のことを気にしなかったというのが一つ。それまでの10年間に「合併特例債」を発行することができるので、一挙に使える財布が膨らむ感覚を持てたのが大きいようです。しかもその合併特例債で市町村が新たに借金するとき、その7割までを国が負担するという、破格に有利な借り入れ制度でした(国の金の分捕り合戦みたいな感覚だったのでしょうが、それは財務省と総務省の「撒き餌」でした)。もしかすると一部には、合併で人口が一挙に増え、さらに人口流入で政令指定都市になれば、県からの実質的独立と交付金の急増も実現できる、と完全に「獲らぬ狸の皮算用」をした自治体もあったかも知れません。これが日本の地方自治体の現実なのでしょう。

しかし、そもそも効率化を実現することが困難な現実もあります。広域自治体になってしまえば住民サービスの対象区域が格段に拡がるので、机上の計算と違って拠点を減らせないのです。番組が事例として採り上げたのが人口7万7,000人の大分県佐伯市です。9つの自治体が合併して九州で最も広い市町村になりました。役場を統廃合できず、佐伯市では8つあった役場をすべて残し、支所として使っています。全国で同様の例が多いのです。結局、効率化できるのは、首長と助役の数が減ることだけかも知れません。

さて、番組では自治体のコスト削減の真っ当な取り組みも紹介していました。例えば、7つの町が合併してできた香川県三豊市。交付税の減額を2年後に控えています。現在100億円ある交付税が最終的に60億円にまで減るため、市は行政サービスの根本的な見直しに着手しています。議論の末に選んだのは業務そのものを有償ボランティアに委ねる改革案でした。発足したのが、定年退職した地域住民などで結成された「まちづくり推進隊」です。住民が行政の業務を一部負担する、有償で(ただし年金生活の人たち中心なので格安で)請け負う、というのが先進国での行政の在り方です。できればもっとITで効率化、住民参加を促すべきで、そうした研究を自治体はすべきです。

行政サービスの重点を決めて、そこに集中しようという町も現れています。これもまともです。高齢化率が30%を超える人口6,300人、合併しない選択をした福島県矢祭町です。中、小規模の自治体に手厚く配分されていた交付税制度が見直され、町の交付税は最大で8億円も減りました。以来、職員を3割減らし、トイレ清掃も職員自らの手で行っています。7年前にオープンした「もったいない図書館」も利用者の少なかった武道館の改築です。44万冊の蔵書は全て寄付で賄っており、入り口に置かれている朝刊も役所の再利用です。行政コストを削減する一方で、重点政策には十分な予算を充てています。特に3億円近くを投じて充実させているのは、子育て支援で(第3子の誕生に祝い金100万円など)、その効果もあってか、ここ数年は出生数が下げ止まっています。ここの首長さんは素晴らしいですね。

小生も最近、ある県に勤めている友人に相談され、何か手伝うことになりそうです。こうした日本、そして世界での地方自治体の知恵を参考にしたいと考えています。