少子化が進む東アジアでの防衛バランスの行方

グローバル

今朝の朝日新聞の記事「アジア成長の限界」シリーズは興味深いものだった。1面の「防衛の前線、少子化の影」では、朝鮮半島を南北に分断する非武装地帯(DMZ)を、脱走した北朝鮮軍兵士が簡単に突破したエピソードを紹介する。北朝鮮への守りである全哨戒所のうち韓国軍兵士が詰めているのは7割に過ぎない。少子化が進み兵員が減り続けているため、体制維持が難しくなりつつあるのである。

2面の「兵役忌避、細る軍隊 韓国、軍備近代化で打開図る」は、より具体的に各国の問題を突っ込んでいる。
主に20代が兵役に就く軍には少子化の影響が真っ先かつ直接に現れるため、韓国国防省は05年、軍の近代化を進めつつ兵員を減らす計画を発表、06年当時68万人だった兵員は現在61万人、20年までに52万人にまで減らす。少子化(出生率:1.3)は1人っ子家庭を増やし、子供に兵役逃れをさせる親の思いが強まる悪循環も進んでいる(小生の母校・米テキサス大にも兵役逃れ目的の韓国人留学生が多かった)。兵役期間を短縮することを政治家も公約に挙げているが、北朝鮮の挑発が相次ぐ上に米国からの不安視する声が高まり、例えば陸軍の兵役期間は現在21ケ月で凍結中だとのこと。しかし少子高齢化がもたらす福祉関係予算の膨張で財政負担はかってないほど高まり(日本と同じ構図である)、軍の近代化予算を確保し続けられるのか不安視されている。

台湾でも背景事情は似ているが、対応策は異なる。中国の軍事的脅威に対抗するため長らく徴兵制を敷いてきた台湾は、15年に志願制への全面移行を目指す。12年の出生率は0.99。毎年の新生児数はたったの23万人。兵役期間はかっての2年が今や1年。これでは戦える軍隊として機能しないという判断が、志願制への全面移行を後押ししたという。現行定員27万人を21万5千人にまで「少数精鋭化」する計画だが、それでも人口の0.93%を占める(日本の自衛隊は0.18%)。実際のところ、肉体的につらい軍の仕事に対し若者の関心を引き寄せるのには苦労しているようだ。

一方、その軍事力増強の震源となっている中国では、兵力数は他を圧する230万人(韓国が61万人、北朝鮮が120万人、日本が22.8万人)。しかし少子化の原因になった「一人っ子政策」の弊害として、甘やかされた「小皇帝」世代の規律低下が酷いらしい。そして少子化の直接の影響として、ここでも軍への志願者の激減が明らかだという。「一人っ子」の親が入隊に反対するのはここでも同じなのである。

もちろん、少子化が真っ先に進む日本でも自衛隊の戦力維持は難題である。東日本大震災などでの活躍や「空飛ぶ広報室」のようなTV番組が自衛隊への一般人の信頼性と親近感を生んでおり、また長きにわたる不景気もあり、昔より自衛官の募集に苦労しなくなったとはいえ、大幅な財政赤字に悩む日本政府には装備近代化・維持のための財源は乏しい。そもそも組織員の誰も戦争を経験したことのない今の自衛隊が「闘う集団」として機能するのかは誰にも分からない。

皮肉なことに、兵士の人数と質を維持できるのは、軍備予算にだけは糸目をつけない北朝鮮だけかも知れない。しかし最も貧しい同国は国民を養い続けること自体に困難を見せており、軍備維持もいずれ破たんせざるを得ない。

結局、中国がこの地域最大の脅威であることはやはり変わらない。中国の国策として軍の近代化をさらに進めるとしても、その兵士の質がどんどん落ちることで戦闘能力に自信が持てなくなってくれば、今のような高圧的に周辺国に圧迫を加える態度を改めることになるかも知れない。この地域で急速に進む少子高齢化が地域の軍事衝突の可能性を減らすことにつながるのなら、「災い転じて福となす」である。