小売“専売”ビールの動きは「弱者のビジネスモデル」

ビジネスモデル

ウェブで別情報を追っていたところ、「広がる“専売”ビール」と称してサッポロビールが小売と手を組んで販売量を確保する動きが報じられているのに気づいた。
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/newsl/post_30949/

イオンとは新ジャンルのビール(いわゆる「第3のビール」)『サッポロ みがき麦』を「共同開発」し、全国のイオン1,700店舗すべてで展開するとのこと。いわゆるPB(プライベート・ブランド)商品ではなく、サッポロブランドを表に出すがイオンだけでしか売っていない、というのがミソである。

その直前には同じ小売大手のセブン&アイ・ホールディングスと共同開発した『セブンプレミアム 100%MALT』を11月じゅうに売り出すと発表している。同グループだけで販売するプレミアムビールである。こちらも商品にはセブン&アイのブランドと共にサッポロブランドを表示し、PB商品とは一線を画している。

実はサッポロがこうした小売“専売”ビールを売り出すのは時間の問題と見られていた。小売大手は少し前から酒類販売コーナーの強化を食品売り場戦略の一つにしており、そのためにワインやビールの品揃え強化を打ち出していた。特にビールは目玉商品にしやすく、ナショナルブランド(NB)商品だけでなく、割安な輸入品とPB商品(作っているのは韓国メーカーなど)に各社は力を入れているが、NBの品質や味に対する消費者の信頼感が強固な壁となって伸び悩んでいた。そのため大手小売数社が大手ビールメーカーに対し共同開発を持ち掛けていたが、それに応じるとしたら販売力に劣るサッポロビールだろうと見られていたのである。

サッポロの視点からすると、商品開発力には自信はあるが(プレミアムも発泡酒も第3のビールも同社が先駆者)、プロモーションの体力や、量販店や自販機での販売で上位3社に対抗できる資本力・営業力がもうないことは自覚している。したがって大手小売の懐に飛び込んで彼らの販売力を借りて、(「共同開発」という名は一部渡すが)実質的には自社商品を開発・製造するのが賢いと開き直ったのである。

当然ながら純粋な自社商品に比べ粗利益率は相当落ちるはずだが、マーケティング・営業コストも大幅に削減できるので、利益率としてはかえって改善するかも知れない。それ以上に大きいと思われるのは、工場の稼働率を維持できることである。従前は、その役割はスタンダード品、そして発泡酒や第3のビールといった普及品に期待されていたのだが、それらは既に「レッドオーシャン化」しており、特に体力のないサッポロの出荷数量は年々減少していたと見られる。

これはバリューチェーンでみればマーケティングの一部と販売を小売に肩代わりしてもらう、大手ビールメーカーにとって新しいビジネスモデルなのである。しかも弱者たるサッポロだからこそ割り切れるモデルである(小生はこういうのが個人的には好きである)。なお同社は、従来の垂直統合方式のバリューチェーンを完全に放棄した訳ではなく、プレミアムビールである「エビス」を中心に経営資源を集中することで、サントリーに奪われた主導権を取り返そうとしている模様だ。この新戦略の帰趨に注目したい。