将来課題を議論するための「新PEST分析」

ビジネスモデル

目先の案件や数字だけを追うばかりでは仕事はつまらないし、部署の結束も固まらない。少し時間的余裕が生まれる、この時期ならではのテーマを話し合ってみるのはいかが?

連休に挟まれたウィークデー。責任者であるあなたが見渡すと、大型連休を取得した数人を除いて大半の部下が部屋に残っている。いつもなら昼間は閑散としているのにどうしたのかと尋ねると、取引先が連休中なので外出する予定がなく、普段やれない資料整理をしているという。じゃあ彼ら自身がどうして大型連休を取得しなかったのかと問えば、連休中はどこも混むしカネが掛かるから避けていると口を揃えて言う。そうだな、陽気もいいし、今日は早めに終わって彼らを誘って飲みに行くとするか…。

ちょっと待って欲しい。こんな時だからこそ普段できない「将来に向けて我々は何をすべきか」を考えてはいかがだろう。会社全体でもいいし、自らの所属部門に限定してもいいので、将来課題を真面目に議論するのだ。「飲みニケーション」以上に、将来像を共有することが部署の結束を固めるのに最も効果的だということは色々な研究で明らかになっているのだから。

会社や部門の将来課題を抽出するアプローチは一つに限るわけではなく、実は幾つもある。以下、業種や人数の多寡にかかわらず取り組みやすいやり方を挙げてみよう。

まずそこそこ知られているPEST分析という手法がある。通常は事業戦略を検討する際に、「今、世の中ではどんな変化が起きつつあるのか」という外部環境要因を分析するためのアプローチだ。4つの環境要因として、政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をとってPESTというわけだ。

この分析はいわば世の中のトレンドを言語化し共有するためのもので、本来決して短期的な視点のアプローチではない。しかしながら普通のビジネスマンだけで行うと2~3年先程度までしか発想できないことが多い。ましてや普段、目先のことに追われている現業部門(営業部門など)で行うと余計にこの傾向が強くなり、しかも抽出されるファクターも普段議論しているものと代わり映えしないことが多いようだ。

それは政治(P)と経済(E)の2項目においてどうしても現在既に起きつつある動きを挙げることになりがちで、それに引っ張られて全体がやや短期志向になってしまうからだ。残念ながらこれでは「会社や部門の将来課題を抽出する」ことにはならない。

そこで敢えて変則型の「新PEST分析」をやることをお薦めしたい。3つの点で通常のPEST分析との違いを説明しよう。

まず最大の違いは、経済(Economics)ではなく環境(Environment)&エネルギー(Energy)を4要因の1つとすることだ。目先の出来事に注目しがちな「経済」よりも、より長期的で根本的な変化のドライバーとして地球や自然環境、エネルギー環境などに注目することで自然と視点が長めかつ広めに維持される実際的利点がある。

2つめの違いは「政治」(P)の扱い方だ。政治・行政がどう対処しているかという短期的観点ではなく、大きなトレンドとして市民が政治・行政に何を期待し要求する方向に向かっているのか、および国際関係が10年の単位でどういう方向に進もうとしているのかという長期的観点に限るという縛りを設けるのだ。しかも分析の順番としては、他の要素の後にする(図参照。他の3要素に引っ張られて長期的視点になりやすい)。

3つめの違いは、ただ単に4要素の変化ドライバーを挙げるだけでなく、最期にそれらから示唆される「自社もしくは自事業にとっての課題」(対処すべき事柄など)まで考えることだ(図参照)。従来型のPEST分析でも弊社ではこうしたやり方をとることが多かったが、特に今回想定しているようなシチュエーションではここまで考えることが目的に適う。

こうして抽出された課題を次のステップでどう扱うかはケース・バイ・ケースである。数が多すぎると思ったら、もう少し絞り込むステップが必要だ。それには単に、もう少し議論して自分たちの部門に相応しくない(貢献できない)と思えるものを外していくのでもよい。「重要性」と「緊急性」のマトリクスで優先度を評価してもよい。もしくは「改善余地」「期待効果」「取組の容易さ」などで評価して優先順位を付けるのでもよい(課題群によってはピンとこないこともある)。

もう十分手頃な数だと思うなら、そこから「ではどうする」という解決策を検討する必要がある。それは皆で改めて議論してしてもよいし、幾つかのグループに振り分けて、各々の「宿題」として検討させてもよい。もしくは課題群の中から好きに選ばせて具体的な取り組みを検討させてもよい。メンバーの顔触れや時間軸などで最も妥当だと思えるやり方を採用すればよい。

肝心なのは、やりっ放しにせずにきちんとフォローすることと、そのためにも各自に「自分事」と思ってもらうように意識づけることだ。この辺りが責任者たるあなたの腕の見せ所だ。そうしたことまで段取りできたら、どうぞ部下たちを誘って飲みに行ってくださいな。