家電量販店のネット対抗努力にはあと少し工夫と戦略が必要

ビジネスモデル

以前、コラム記事に「限界に来た家電量販店のビジネスモデル」というのを書いた。
“限界に来た家電量販店のビジネスモデル” http://www.insightnow.jp/article/7764
その後幾つかフィードバックをもらったが、この7月23日、WBSで家電量販店の取り組みを放送していたのを観て、いわば続編を書いてみたい。この業界の努力具合に対し、改めて敬意と共に、「ズレ」も感じたためである。

番組が採り上げた課題は、いかに店舗のショールーミング化(店舗では製品を触り説明だけ訊いて狙いを絞るだけで、実際の注文はネット通販で行うこと)を避けるか、ネット通販に如何に対抗するかが狙いであって、それ自体は正しい問題意識である。

そこで紹介された一つはコジマ・ダイレクト高松というリニューアル店舗での取り組みである。タブレット端末で、随時変わるWeb価格や商品情報を確認しながら買い物をする、今までにないアプローチである。これにより、後ほどネットで最安値をチェックして注文する必要がなく(店がショールーミング化されることなく)、その場でネット上の最安値に値引きすることが可能になる。しかもこの店舗はネット通販の倉庫も兼ねている。ヤマダ電機のLABI1 高崎でも同様に、店内で「価格.com」の情報を得られるようになっており、そこから商談が始まるという。

ちょっと不思議なのは、LABI1店のスタッフは「この最安値から交渉が始められます」と客に訴えていたことだ。本来、店で注文ができるということはネット注文の手間もないしすぐに製品が入手でき、配送料も要らない分だけ割安なはず。ネット上の最安値に合わせるだけで十分だろう。戦略的に言えば、「2番目の安値価格に合わせる」としたほうが(これでも十分価格競争力はある)、一部業者の思惑による一時的な値崩れに引っ張られることがない分だけ望ましい。そもそも最安値競争ばかりずっと続けていたら、アマゾンのような体力のある世界的ネット通販企業や、本社と倉庫をド田舎に構えて小数人で運営しているネット専業企業に勝てるわけがない。売上は上がっても利益を確保できないジレンマに陥る可能性は高いといわざるを得ない。

そのあと番組では「LABI 自由が丘」などの取り組みとして、量販店の店舗スタッフがネットで注文のあった品の配送をする様子を伝えていた。これは通販サイトに午後3時までに注文が入ったら、最寄りの店舗から社員が即日配達するというもの。これもまた不思議である。確かに店の在庫から届けるので好評とは思う。しかし届ける時間を予約するのに朝から電話を掛けまくってもなかなか電話がつながらず、ようやく数人につながって届けようとすると慣れないので客の自宅になかなか辿りつかない。これは本来なら配送会社に委託すべき仕事であって、量販店の店舗スタッフには全くノウハウがないので非効率なのだ。結局、毎日多くの店で一人分の配送コストが掛かっているわけだ。

最大の問題は、その日じゅうに沢山の家に届けるのに精一杯で、ようやく客の自宅を探し当てても、客に玄関先で品を渡してそれっきりになってしまうことである。せっかく客の自宅に店舗スタッフが行くのだから、上がらせてもらって使い方を見るべきだ。悪くとも実態を把握できるし、慣れてくればよりよい家電の使い方に関するアドバイスをできて感謝される。場合によっては新しい商品の提案もできよう。ネット通販会社には逆立ちしてもできないやり方である。

台頭してくるネット通販会社に対抗するために家電量販店が色々と工夫をしていることは分かったが、戦略検討に慣れていないのか、工夫の点で一捻りが足らないことや「2の矢、3の矢」が不足しているなど、難点がある。そう感じるのは経営コンサルタントの性だろうか。