婿社長が体現する“伝統は革新の連続”

ビジネスモデル

伝統的な産業ほど革新を続けて今に至っている。この逆説的だが真を突いた説を改めて思い起こさせる事例に時折出会うことがある。

9月10日に放映されたNHKの経済フロントラインの『未来人のコトバ』は、相模屋食料の社長、鳥越淳司さんをフィーチャーしていた。彼は前社長の娘婿として入社以来社業の改革を続け、2002年の入社当時は28億円だった売り上げを、2015年には7倍を超える200億円超にまで伸ばした凄腕だ。鳥越さんが大事にしているコトバが“伝統は革新の連続”だ。

彼が相模屋食料に入社した14年前には、業界には昔ながらのやり方を変えようという意識は、ほとんどなかったという。そんな中、「変わりようが無いと思っているならば、やればものすごいチャンスなんじゃないかなと思いました」という感想を持ったというのが素晴らしい。

入社してから2年間、毎日午前1時に工場に行き、職人たちと一緒に豆腐を作ったという。「(大事なのは)現場に行くということ、一緒にやるということです。(それで)“あいつの言うことだったら聞いてやろう”という(気になってくれる)」という人の気持ちを理解していたのだ。

鳥越さんは以前、雪印乳業で営業マンをしていたときに乳製品の集団食中毒事件が起きた。被害者の家を訪ね謝罪して周った際に「“何でこうなったんだ”と必ず聞かれるんです。そこで私はまったく答えられないですから、(製造現場を)知らなかったことは、ものすごく罪なことだと思いました。
豆腐の業界に入ったときには、いちばん最初に豆腐作りをやって、身に付けようと思ったんです」という鳥越さん。

こうした現場重視の姿勢を持ってまず取り組んだのは、豆腐の作り方を全面的に見直すことだった。11年前につくった第3工場は建設費41億円。年間の売上げを大きく上回る投資。3台のロボットだけで豆腐を全自動でパック詰めしている。従来方式では、蒸した豆腐を水中で冷やしてからパックするのが常識。しかし、豆腐は熱いままのほうが風味を保つことができ、日持ちもする。熱々のままパックする方法を模索し、発想を転換して「パックを上からかぶせる」方式にしたのだ。

おいしさが保たれ、賞味期限も従来の3倍、およそ15日に伸ばすことができた。これにより販路は拡大。売上げを一気に伸ばすことができた。客層を広げるため、彼が次に取り組んだのは若い女性や男性も手に取るような商品の開発。

社長が先頭に立って開発したのが、「ザク豆腐」。「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツ戦士だそうだ。知らなかったが、面白い。鳥越社長の明るいキャラクターが効果を発揮したのだろう。