大学事務局よ、ブラックバイトに対処する責任はあなた方にある

社会制度、インフラ、社会ライフ

アルバイトといえば学生の小遣い稼ぎで、あまり当てにできない戦力。これは昔の常識。今や飲食業・サービス業を中心に多くの現場オペレーションに組み込まれており、無くてはならない存在となっているのが実態である。しかし学生の法的無知や優しさに付け込んで、とんでもない働かせ方をして恥じない連中がいるのも事実だ。彼らに対処すべきは、学生の味方である大学の事務局である。

ブラックバイト。最近耳にするようになった言葉だ。学生を中心とするアルバイトの雇用・使用において、そもそも労働基準法に違反するやり方だったり、募集時に合意したはずの内容と違った業務をさせたり、もしくは学生なのに過度な責任やシフトを背負わせたりすることによって、学生生活に支障をきたすような労働実態を指している。

その問題事例は多岐に亙っている。例えば「残業代の不払い」や「労働時間の不当なごまかし」、「給料支払いの滞納」など汎用的で法律違反が明白なものもあるし、「(準備作業や事後の報告などに時間を取られるのに)塾で実際に教えているコマ分しか時給がカウントされない」(「コマ給問題」といわれる)などといった業界特有の実態もある。

また、本人の希望を無視したシフトを組まれて授業への出席や試験に支障をきたしたり、バイトリーダーと称して揉め事を収める役割のせいで試験中でも緊急連絡が入る、など学生の身で背負うには重すぎる責任を課されたり、ひどいケースでは売上ノルマを課されて不足分を自腹で補わされたりすることもあるようだ。

ここまで聞いて、小生の世代の人間は大半が首をかしげるはずである。「そんなひどいバイトなら、さっさと辞めればいいじゃないか」と。実際、泣き寝入りしているケースも少なくないそうだが、辞めずに深入りするケースも後を絶たない。

我々の頃とは事情が大きく変わったのである。まず長引いた不況の影響で学生の親が仕送りなどを減らさざるを得なくなった。しかも何故か大学の授業料は高騰し続けてきた。その結果、多くの学生にとってアルバイトは「小遣い稼ぎ」の手段ではなく、学生生活を続けるための必須手段になっているのだという。気に入らないからと簡単に辞めるわけにはいかないと学生は考えがちで、しかも忙しすぎて、次のバイトを探す時間的余裕すらないのだという。

もちろん、絶対的に言えるのは彼らの法律的知識と社会的常識の不足である。不当な扱いを受けて「おかしいな」とは感じながらも、どこがどうおかしいかを指摘できないのだ。社会人の店長・上司が言うのだから法律的にも正しい、未熟な自分が知らないだけに過ぎないなどと思い込んでしまうのかも知れない。

しかし本来なら親御さんや職場外の社会人の先輩、先生方に一言相談すれば済むようなケースでもそれをしていない。よほど世界が狭いのかも知れない。また、得意のインターネットや図書館で調べればすぐに分かりそうなものだが、その時間的余裕すらないのかも知れない。

そうした学生の無知に付け込んで、現場の苦労の一端をアルバイトに押し付けようとしているのがブラックバイトの実態なのだ。

実は無茶な働き方をさせている店長・上司の側にも、法的に間違ったことをしているとか、倫理的に問題のある働き方をさせているという認識がないケースがあるのだから厄介だ。要は社会人とはいえ法的・社会常識的に欠落した人間はゴマンといるということだ。

もちろん、社会常識的にはマズイという感覚を持ちながらも、自らの立場を守るために無知もしくは立場の弱い学生に無理を強要したり泣き落としをしたりしているケースが大半だろう。そして彼ら現場責任者が過剰なノルマや利潤への大きなプレッシャーを感じているという背景があることは間違いない(だからといって同情の余地はないが)。

さらに昔の学生と違って、今の学生は「周囲への優しさ」と「関係性への過敏性」に溢れている。無茶なシフトだと思いながらも、自分が抜けると穴があく、それは誰か他のスタッフ=仲間にしわ寄せが行くため嫌がられる、最終的にはお世話になっている店長が上から叱られる、ならば自分が当面我慢すればいい…と「大人の対応」を自分に納得させるようだ。

一方、大半のブラックバイトを行っている企業の経営者は実態を知らないまま、こうした理不尽な行為を部下に続けさせているのだろうか。…それも考えにくい。ブラックバイトを生むような産業・業態はある程度限定されるのだ。その典型例は飲食店、コンビニ、塾だ。これらの業種は労働問題の常習者なのだ。

特に飲食店チェーンの多くで、日常の現場オペレーションにおいて学生アルバイトを中心に回っている実態があり、社員は店長だけといった具合にごく一部しかいない。数店舗を指導監督する人間は社員だが、店舗はほぼ全員がアルバイトとパートだというようなケースも少なくない。

こうした業態では「ブラックバイト」という新用語の前に、「ブラック企業」というレッテルが貼られているケースが数年前に相次いでいる。つまり元々従業員を酷使し使い捨てにする体質が業界に存在すると考えるのが自然だ。単に現場から正社員がいなくなって、残ったのが契約社員とアルバイトだけ。その結果として「ブラックバイト」に注目が集まっている、というのが典型的パターンなのである。

塾講師にはプロも多くいるが、最近まで現役受験生だった学生は歓迎され、見掛けの時給が良かったりするので人気なのだ。しかし実態は、先に挙げた「コマ給問題」に代表されるように見掛け倒しで、「真っ黒」なのだ。そしてこれは業界ではかなり以前から問題視されていたのだ。

言い換えれば、対象となっている企業の経営者には確信犯が多いのだ。現場からの悲鳴と世間の糾弾が聞こえてからは十分な時間が経っているはずだが、自分たちが直接指示をしていないことをいいことに、最後は「現場が勝手にやりました」と言い逃れができると考えているのだろう。

今年、「ブラック企業大賞」(労働相談に取り組んでいる弁護士や市民団体、ジャーナリストなどでつくられた実行委員会によって実施されている)にノミネートされている企業はその中でも「栄えある」ブラックバイト企業の代表である。

コンビニ最大手のセブン‐イレブン・ジャパン、福井県の消防・防災機器の販売・保守点検サービスの暁産業、外食サービスのフジオフードシステム、靴販売のABCマート、個別指導学習塾「明光義塾」を運営する明光ネットワークジャパン、アリさんマークの引越社関東の6社だそうだ。各ブラック業界の代表選手といってよかろう。

このうちFC傘下のコンビニオーナーの行儀の悪さへの指導が行きわたらないセブン‐イレブンを除けば皆、自らのオペレーションで起きている実態だ。「知らぬ、存ぜぬ」が通じないばかりか、世間からの非難にも耳をふさいでおり、いずれも強者揃いのようだ。

さて、一体こうした事態に対し、わが心優しい行政府はどんな対策を考えているのだろうか。約6割の学生が賃金の支払いなどでトラブルを経験していたことが初の実態調査で分かったことを受けて、厚生労働省は経団連に法令順守を要請するほか、労働法に関する高校生向け教材の作成を検討するなど、対策を強化すると発表したそうだ(2015.11.1付けの産経ニュース)。

しかしこうしたブラックバイトを実践している企業や雇用主のどれだけの割合が経団連に所属していると、厚労省は考えているのだろう。何らかの社会的罰則や強制性がなくて、その傘下に所属しているグループ企業にこうした実態の有無を探らせて、しかも矯正することができると本気で考えているのだろうか。はなはだ疑問である。

また、なぜ労働法に関する教材は、受験という人生の一大イベントを控えた高校生向けなのだろう。どう考えても、これからアルバイトに従事する意欲が満々の大学生に向けて注意を促すのが緊急かつ効果的ではないか。

この厚労省の発表とは別に、ブラックバイト対策の国会質問などで分かったことがある。文科省が全国の大学や高専、専修学校、教育委員会の担当者に対し、学生たちからの相談を各都道府県労働局が受け付けることを学生たちに周知し、大学も労働局と連携を図るよう(昨年の11月25日付)文書で要請しているとのことだ。

これはもちろん必要かつ有用だと思う。しかし約1年前の文科省の文書が効果を発揮していないことは、今年になってもブラックバイト問題が収まらないどころかますます広がっていることからも明らかだ。

では効果的な打ち手は何で、誰が動くべきだろう。第一義的には、大学の事務局だと考える。なぜ大学か?学生の味方は大学なのだから。そしてそもそも大学の授業料の高騰が原因の一端にあることを自覚したら、「それは役所に相談してください」などの逃げ口上は出ないはずだ。

学生からの相談を受け付けて親身になって相談し、毅然とした態度を執るように指導することが最低限、必要だ。そして場合によっては事務局スタッフが相手企業に(まずは電話した上でだが、相手が曖昧な態度を執るなら)乗り込んで抗議し、それでも埒が明かないなら裁判に訴えてでも白黒をつけようという態度を見せるべきだ。

この点に関し、「それはまず親がすべきじゃないか」という意見があろう。自宅から通っているごく普通の学生については小生もそう思う。まず親が相談を受けて、助言し、抗議すべきだ。

しかしこうしたブラックバイトの被害に遭う学生の多くは往々にして、仕送りをしてくれる親に心配を掛けたくない地方出身の学生だという。ならば離れて住む親が、我が子がこうした事態に苦悩している事実さえ知ることは、現実的には難しい。

また自宅通学の学生でも、経済的理由による極端な多忙や他の子どもの養育などの理由で親が子供の相談に応ずる余裕がないことも十分に考えられる。そんな親に相談できないからといって学生を突き放すことは理不尽だろう。

したがって彼らが学業を第一に没頭できる環境に近づけるようサポートする義務かつ現実的可能性を持つのは大学、しかも事務局ではないか(世間知らずが多いとされる大学教員を頼ることは筋違いだろう)。

改めて乞う。大学事務局諸氏には、ニッポンの明日を背負う若者をブラックバイト企業の毒牙から守るため、是非立ち上がって欲しい。言い換えれば、こうしたイシューへの対応次第で、親はその大学の実力と覚悟を評価するのだ、と肝に銘じて欲しい。