地方の海産物を新鮮なまま届ける、流通の革新

BPM

2月19日(火)の『ガイアの夜明け』は、「“絶品の味”が身近に!~ここまで来た、凍らせる技術~」。独自の技術や取り組みで地方の隠れた名品を冷凍またはそれに近い形で輸送することで、日本の食の流通を変えつつある(大手冷凍食品メーカーや小売企業ではない)異色の企業の挑戦を追う。

1つ目は、異業種から参入しヒット商品を生み出ている警備会社のセコム。冷凍食品の宅配「セコムの食」の利用者は年々増加し、現在10万人を超えているという。「但馬牛の煮込みハンバーグ」や「比内地鶏の水炊き」など、地方の人気店が作る総菜や菓子など約500種類、地方の小さな生産者が生み出した食材を、冷凍させることで都市圏の消費者に美味しいまま届けることを可能にし、ヒット商品に生まれ変わらせる取り組みを番組は追っていた。

セコムの食の主任・猪口由美氏は、そこでしか食べられない一品を探して全国を飛び回る(さすが儲かっている大企業!余裕が違う)。番組で取り上げられていたのは、熊本・阿蘇市にある「菓心 なかむら」の「ふかふかロールケーキ」(「セコムの食」No.1人気だそうだ)、青森県・弘前市にあるレストラン「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」の「笹森シェフのまかない馬肉カレー」。どれもさすがに美味しそうである。

ただ、番組を観て思ったのは、「なぜセコムなのか?」。確かに「安全、安心」が彼らの事業キーワードではある。しかし本来、こうした仕事はそうした美味しい食材に対し目利き能力があるはずの食品加工メーカー、小売企業、そして飲食業者が先んじて行うべき通販事業ではないだろうか。そうした会社が既存事業の枠組みに捉えられ過ぎて、ビジネスモデルを工夫できなかったから、(本業で無闇に利益が上がるために素人担当でも手間暇を分厚く掛けることが許される)異業種のセコムが手掛けたら凄く評判がよくなってきた、という構造ではないかと類推できた。

 もう一つ、群馬県にある従業員わずか6名のベンチャー企業「マーズカンパニー」がその技術と頑張りによって地方活性に貢献する姿が取り上げられていた。彼らは「シースノー」を作る機械のメーカーであり、その特許を保有する。塩分濃度1%の氷を作ることにより、氷の温度は-1度になる。その「シースノー」という氷で包んで全国に魚を発送すると、驚くほど鮮度が保たれるのである。

彼らが開発したもう一つの驚異、特殊な冷蔵庫「蔵番」では、庫内の温度がマイナス2度にも関わらず、食品内部の粒子を振動させることで完全には凍ってしまわない状態にすることを可能にした(この原理は、以前別の番組で取り上げられていたアビー株式会社の冷凍技術” CAS=Cell Alive System”と同じかも知れない)。2週間前に冷蔵庫にしまったきゅうりやニシンでも新鮮なままである。

この「シースノー」と「蔵番」を組み合わせることにより肉や魚などを2週間程度長期保存でき、北海道で獲れた魚を沖縄・那覇市にある居酒屋「吉崎食堂」でも新鮮な刺身で食べることができるようにした(つい「どうして沖縄の居酒屋で北海道産の魚を出すんだよ!それじゃ地方の味の意味がないだろ!」と突っ込みを入れてしまったが…)。宮古市は震災で被害を受けたが多くの漁業が再開しており、宮古市役所は地元で獲れる深海魚・どんこを関東に輸送したいという。

番組の中では、松井社長はシースノーを使ってどんこを詰め、蔵番のある埼玉県深谷市へ向かう。鮮度計でどんこの鮮度を計測すると値は17.0と最高レベルだ。そして群馬・高崎市に運ぶ。スーパー「食の駅 ぐんま 前橋店」で販売したところ、馴染みのなさと見た目のグロテスクさから中々売れない。結局、松井の必至の接客により1尾だけ売れたところまで番組では紹介していた。

地方の味を都会で味わいたいという消費者は多く、こうした食産物の冷凍輸送ニーズは高い。是非、アビーのCASと同様、地方の水産業・畜産業を活性化させるのに役立って欲しいものだ。