営業改革を考える (14) むやみに風呂敷を広げない

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会社にとって重要な改革であればあるほど狙い・範囲を欲張らないことが肝要だ。絞った狙いを達成するため、絞ったレバレッジポイントを集中的に攻める。そうすれば改革に参加する人たちが改革ストーリーを理解しやすくなり、賛同・協力はもちろん、実行時に迷わなくなる。中核的な部門をしっかりと改革して、そのノウハウをもって他の部門に成功を広げていくことができる。

往々にして営業プロセス改革プロジェクトでは「遠心力」が働く(いや、大概の業務改革プロジェクトでも似たようなものと云えそうだ)。

どういうことかというと、社内関係者、特に経営者から「あの部門も含めて欲しい」「この製品ラインにも初めから参加してもらったほうが」「こちらの課題もついでに解決できないだろうか」等々といった要望が途中から(大体は全体構想策定が終わって「さてこれから本格化するぞ」という段階になって)もぞもぞと出てくるのだ。

そうした狙いや範囲(プロジェクトの「スコープ」と呼ぶ)の途中追加・拡大はかなり厄介な問題を引き起こすことが多い。せっかく整理した全体構想の焦点がぼやけ、歪み、悪い場合には一部矛盾する。すっきりした改革ストーリーに仕上げたはずなのに、妙に複雑になってしまい、初めて聞いた人の頭にストンと入らなくなってしまう。当然、肚落ちもしにくい。

さらに先に進むにつれて問題は深刻化する。制度や新方式の狙いがぼやけ、業務のつながりが悪くなり、余計な手間が増える。システムが複雑怪奇になり、工数と費用が膨大に増える一方で、操作を面倒に思う人が多くなり、せっかく導入したシステムが宝の持ち腐れになる、云々。

要望を出してくる経営者の気持ちは分からないでもない。最初は比較的シンプルに考えてプロジェクトを始めた(そして外部コンサルまで依頼した)のだが、自分なりに色々と考えているうちに、気になる点が増えてくるのだ。「あの部門を外すと拗ねるかも」「業務的に関連しているのだから、一気通貫で改革したほうが」「この課題も一緒に考えてもらったほうがいいんじゃないか」…等々と。

しかし狙いの途中追加や「スコープ」の途中拡大はよほどの場合でない限り、改革プロジェクトの迷走をもたらしかねないので、原則として当社では断っている(もちろん、その要望が妥当至極で、最初から仕切り直しすることを覚悟してくれるならばこちらも腹を括って見直すケースはある)。

当社が担当するのは超上流なので、ここでいい加減な妥協をすると、下流工程の人たちは悲惨な事態に陥りかねないのだ。その分、プロジェクトを始める前の企画相談の段階で色々な論点を挙げて議論することで、こうした「途中の迷い」の可能性を事前に極力排除している。

しかし世の中にはそこまで最初に仕切りを行わず、お客の思い付き的な追加要望を簡単に受け入れてしまって、後々難渋するプロジェクトがゴマンと存在するようだ。

「構想段階に主たる原因を発する」とされる比較的最近の例(営業改革の例ではないが)を思いつくままに挙げても、電力業界の「広域基幹システム」、クレディセゾンの共同機関システム、ウェスチングハウスの原発施設建設、三菱重工の豪華客船建造、等々と出てくる。ここまで有名ではなくとも、「痛い目を見た」という話は大概のお客さんや知り合いのコンサルタントからもよく聞く。

経営者の皆さん、くれぐれも安易な「狙いの追加」「範囲の拡大」に走る誘惑に負けてはいけませんぞ。