取材があぶり出す途上国での搾取の現実とジャーナリストの迫力

グローバル

年末なので仕事はひと段落。過去に録画した報道番組やドキュメンタリー番組などを「拾い観」している。特にNHKの「BS世界のドキュメンタリー」はしっかりした中身と日本国内ではなかなか気づかない視点を与えてくれるので貴重だ。

11月14日(木)に再放送(最初の放送は7月10日)されたのが、「ラベルの裏側~グローバル企業の生産現場~」(原題はUnderhand Tactics: Toxic Lable)。製作はフランスのPrémieres Lignes Télévision (2012年)。

過去10年間で、フランスでは洋服の値段は13%も下がったという。その代償を支払っているのは誰なのか―?これが番組の問題認識だ。仮説は「製造に関わる発展途上国の労働者が搾取されているのではないか?」というものであろう。そしてその仮説はどうやら当たっていた。アパレル産業が輸出の8割を占め、今や中国を抜いて「世界の縫製工場」と呼ばれるバングラデシュを取材した取材班は、工場でさまざまな“搾取”が行われている現実を目の当たりにする。

バイヤーを装って有名ブランドの商品を請負う工場を訪れた(発注先を探すアパレルメーカーを装っていた)取材班は、低年齢の未成年が多数働いている様子を目の当たりにする。その後、労働者が住むスラム街に潜入し、12歳の少女から週に60時間、労働しているという証言を得る。1人ではなく、どうやら多くの少女が同じように働いているようだ。

しかし取材班が聞き込みをしていると、工場でも様子を監視していた男が近くに来て、様子を探ろうとする。工場のスパイであり、取材班を追跡していたのであろう。少女やその他の従業員たちに不利益になりかねないので、取材班は早々にそこを引き揚げざるを得なかった。こうして証拠をなかなか掴ませないよう、現地の工場経営者たちは悪知恵を働かせて警戒していることが示唆される。

健康に被害を及ぼすため先進諸国では禁止されている加工方法も平気で行われている。働く職人は、健康被害を食い止めるためにも、ただちに仕事を辞めるよう医者に勧められるが、家族を養うためには、それはできないという。しかし元も子も失くしてしまいかねない、危うい先送りの判断である。

さらに取材班は、ブランドを多数展開する欧州大手企業の取引先工場に関する文書を入手。それらの企業もまた、現地工場の労働環境が劣悪だと知りながら取引を続けていたことが発覚する。「知らぬは発注元のアパレルメーカーばかり」という構図ではなく、彼らもまた実態を知っていながら目をつぶっていたのである。自国民でなければ構わないとでもいうのだろうか。

取材班は発注元である別の大手の仏アパレルメーカーの責任者に直撃インタビューを試み、そこで調査結果をぶつけ、現地の実態把握を実施すること、そしてもし状況を改善する手段を取引先工場が速やかに執らない場合、発注先を変えるという明言を引き出す。

このあたり、とても緊迫感もあり、事実を基に社会正義を実現させるというジャーナリストとしての覚悟が伝わってくる場面だった。日本の大手新聞社やTV局のサラリーマン取材者や芸能レポータ等とは全く違う、プロとしての迫力がにじみ出ていた。アパレルメーカーの責任者としても決して軽視できない圧力を感じたろう。もし軽くあしらう態度を見せれば、明日からそのブランドは不買運動に遭いかねない。それが欧州の消費者の力なのである。そしてそれを引き出すための、取材動画の威力もまた、この番組は示していた。