医療のムダをビッグデータがあぶり出すための課題は小さくない

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10月2日(水)の「クローズアップ現代」は「ムダの“見える化”で 医療の質を上げろ」。ビックデータが医療現場をどう変えようとしているのか、最前線の現場から効果と課題を教えてくれた。

患者のカルテや診療報酬のレセプトなど、膨大なデータを分析することで、どういった治療をすれば最適な効果が上がるかという「費用対効果」が可視化され、これまでブラックボックスだった『医療のムダ』があぶり出されつつある。

いち早くデータ統合に踏み切った岐阜大学病院。まず再手術に注目。前の終日で予定時間を大幅にオーバーしていることが分かり、それをさらに精査すると、事前の検討・準備がずさんなことで最初の手術がうまくいかず、再手術が必要となったケースが多いことが分かった。

こうした治療の質を上げることで、再手術は30%減ったという。次は抗生物質などの投与を中途半端に止めてしまうことで却って入院期間が延びるケースがかなりあることなどが、薬剤師がデータを見ることで判明。これらを改善し投薬量が減ることなどで、数億円余の医療費の削減に結びつけている。そして患者の入院日数を平均6日間、減らすことに成功。回転がよくなることで病院の年間収入は1.8倍に増えたという。

東京医科歯科大学教授の川渕孝一さんが「データサイエンティストは引く手あまただが、医療業界にはほとんどいない」と指摘していた。

医療ビッグデータの先進国・スウェーデンでは、高齢社会に備えて社会保障情報も統合しているという。例えばリウマチでは「高い治療薬を選択しても、患者が早期に社会復帰できれば安く済む」。国がこれまでと方針を変えたのだ。10倍高い新薬でも、それだけ入院期間が短縮するなら、社会復帰が早まることで患者の負担は減り、ひいては納税ができるので国にとっても望ましい、と。今ではリウマチや脳梗塞など169の治療項目をビッグデータで解析して、改革が進められている。特に脳梗塞は全体の治療費が約1/10に減るとのこと。実に大きい数字だ。

さて翻って日本ではどうか。川渕教授が指摘していた。「今、日本ではがん患者の数すら分からず、お寒い状況。国の医療費は、過去最高の38兆円。グローバルベンチマークという指標を使って『他流試合』を病院ができるようになれば変わってくる。まずは診療報酬制度を変えることで動かすのが早い。費用対効果を見える化すべき」、と。全くその通りだが、日本の病院の多くはむしろ、その「見える化」によって自分達の儲け分を吸い上げられてしまうと尻込みするのではないか。まずは病院に真の経営者(ただのコストカッターではない)をねじ込む必要があろう。