出版業界の「敷居下げ作戦」と危機感

ビジネスモデル

8/9(金)のWBSでは小説家・福井晴敏の新刊「人類資金」が250円という驚きの価格で売り出されたことを採り上げていた。「本離れ」は未だに進行中で、10年近くずっと国内出版物の売り上げというのは減少している(2005年には2兆1964億円あった売上が、2012年には1兆7398億円まで下がっている)。そこで大胆な割引により、なんとか読者を取り戻そうという試みが始まったわけである。

経済小説、「人類資金」は全7巻を刊行する予定で、8月9日には1巻と2巻が同時に発売された。その第1巻を定価500円の半額、250円で発売したのだ(2014年3月までの期間限定)。確かに安い!お客も驚いていたし、丸善の販売担当者も驚きというか不安を隠せないようだった。しかもこの小説は発売前から映画化が決まっていて、10月19日から全国で公開される予定だという。

講談社の書籍販売局次長・藤崎隆氏が語っていた。「書籍を原作とした映像化というのが、本の売り上げを伸ばす一番の大きなポイントになったりしますので…」「今回の250円は、画期的な値段付けだと思っております。…ここでまず読者の方に手にとっていただければ、これだけ面白い作品ですので、途中で映画を見たとしても、その映画のディティールをもう一度本で読みたいという方がかなり出てくるんではないか、と」。うーん、なるほど、でも…(途中で映画を観た人の何割かは結末を映画で知ってしまうと、そのあとの巻を読み続けるのだろうか…)?

著者の福井晴敏自身がコメントで言っていた。「驚きましたよ。「250円になりました」っていくらなんでもじゃないかと思った。敷居下げ作戦」と。それでもこの実験的な販売戦略に乗った背景には、出版をめぐる現状への危機感があったという。「電車に乗ると一目瞭然だと思うんですが、全員スマホを見ていますよ。多分時間つぶしで活字を読む量がそこで満たされちゃっている」と。それでこうした試行をやってみようという話になったのだということである。余暇時間の奪い合いがそれだけ激化していること、それを背景とした出版業界の危機感を感じた。

実は今、その出版業界絡みの仕事(残念ながら、売れるようにするためのマーケティング関係のプロジェクトではないが)をしており、大きな関心を持っている。真面目に仕事をしてきた人たちばかりの業界なので、今回のような思い切った取り組みは珍しい。応援したい。