公共データは公共のためのものであって、役所のものではない

ビジネスモデル

9月17日(水)に放送された「クローズアップ現代」(NHK)は「公共データは宝の山~社会を変えるか?オープンデータ~」。実に興味深い内容でした。

国勢調査や家計調査など行政機関に眠る膨大なデータを一般公開する「オープンデータ」。経済波及効果は日本でおよそ5兆円に上るとされ、企業がビジネスに活用するケースが広まっています。この活用面を調べるミッションを担っている知人もいます。実際小生も、ある分野での行政情報がデジタル化され一般公開されることを前提に、公共データを活用してのビジネスモデルを少し前、あるクライアントに提言したことがあります。

本番組では、厚生労働省の介護事業所のデータを使って、ニーズに合った施設を見つけ出すという、あるベンチャー企業のサービスを紹介していました。厚生労働省が公開している全国の介護事業所のデータに含まれるのは施設の住所や介護メニューの基本的な情報で、これだけでは使い勝手がよくありません。そこでこの企業は、厚労省が公開した情報を自社のシステムに取り込み、独自に180もの項目を追加しました。例えば介護事業所の空き状況などの情報を加えます。市内の介護事業所に呼びかけ、このサービスに登録してもらい、最新情報をリアルタイムで更新してもらいます。

これにより、ケアマネージャーは「木曜日、足のリハビリに空きがある事業所は?」などと検索すれば、条件に合う事業所をすぐに探し出せるようになったのです。介護事業所探しにかかる時間は、3日から僅か30分と大幅に短縮できました。また、受け入れ先を早く見つけられることで、その分家族の介護の負担を軽くすることができました。素晴らしいですね。

オープンデータをビジネスに取り込む動きが過熱しているアメリカでは、政府が5年前から行政データの公開を始め、今やその数は40万件にも上ります。人々はそれを使って新たなビジネスを生んだり、社会的な課題解決につなげようとしたりしています。

有効例の1つが、犯罪捜査や防犯の取り組みです。アメリカの警察はいつ、どこで、どんな犯罪が起きたのかという犯罪データを次々に公開しています。このデータをもとに、社員40人のITベンチャー企業が、犯罪が将来どこで発生するのかを予測するサービスを開発しました。全米各地の警察がパトロール活動に既に導入し、イギリスや南米の警察も契約を交わしたそうです。カリフォルニア州のアルハンブラ市警察では、パトロールは同サービスで指示されたエリアを重点的に行います。

農務省と国立気象局が持つ過去60年分のデータからは、天候のリスクなどを予測して農家向けの保険が作られました。悪天候などが原因で不作になった場合、農家の収入補償を細かく行うというものです。農地ごと、作物ごとに非常にきめ細かいリスク計算をして、農家の心配の種である、その収入の波というのをなくしていくというものです。農家の立場に立ったサービスだと思います。

アメリカでオープンデータを活用することで生まれたビジネスは500以上。今後、この動きは加速し続けると見られています。翻って日本ではまだまだ途上も途上です。まず行政がそれほど公共データ公開に熱心ではないのが一番のボトルネックです。個人情報保護を名目に、公共データの公開を拒む例が多いと聞きます。このボタンの掛け違いは、役所が、公共データを自分達の所有物と勘違いしていることから始まっていると思います。

従来は「オープン」といえば「データを見せること」というわけでしたが、「オープンデータ」というのは、自由に使える、編集加工してビジネスにできるように公に提供するというものです。公共のデータというのはそもそも公共財であるという認識を持っていくということが重要です。個人が特定されないよう公的機関が関与・保証して公開する。それを民間が知恵を使って役立つサービスに使っていく。こうした動きにつなげていくことを積極的に後押しする、これこそが政府がすべき第3の矢、成長戦略ではないでしょうか。