人型ロボットは製造業をどう変えていくのか

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4月28日(日)のNHK「Biz+ サンデー」の特集は、「導入進む人型ロボット」。日米の製造業現場などで導入が始まった人型ロボット最前線の動きを追っていた。

番組ではまず、金銭処理機大手のグローリー(株)の工場の様子を映す。同社の工場ではセル方式のフロアと流れ作業のフロアの両方で人型ロボットが使われている。人間の作業員に混じって人型ロボットが甲斐甲斐しく同じ作業をしている様子が映し出されていた。部品の単純な組み付けだけでなく、ゴムベルトの巻き付けやテープ剥がし、基板の補充などの複雑かつ微妙な動きも器用にこなすのがよく分かった。やはり動画で観ると実感が湧く。

部品や基板の置いてある位置が多少バラバラでもちゃんとピックアップできるのは、画像センサーによって正しく認識されるから。全ての動きは個別にプログラミングすることで制御されており、組み立てる機器が違えば違う動きを正確に繰り返す。大量生産に向いた専用ロボットと違い、多品種少量生産に向く。人間だと1カ月に1回の頻度の動きは忘れてしまい、マニュアルを参照しながらでないと間違ってしまうが、ロボットなら大丈夫だ。

熟練した作業員に比べれば1.4程度時間が掛かるというが、休憩も取らずに作業し続けることができるので、一日をみればほぼ人間1人分の仕事をこなすという。この川田工業製ロボットの導入費用は本体だけで1台約740万円。安くはないが、2年もせずに回収できる費用なのだろう。

続けて、味の素の研究所において、安川電機製の人型ロボットが黙々と同じ実験を繰り返す様子が放映された。人間だったら飽きてきて作業にブレも生じるところだろう。これで実験の品質が上がり、研究開発の効率が上がるという。導入費用にはなんと数千万円掛かったという。

そのあとに産業総合技術研究所の研究部門長・比留川博久氏が登場。画像処理の技術が格段に進歩した訳ではないという。むしろ人と同じ環境で使えるように(つまり特別な製造ラインにせずともよいように)工夫したことで一挙に導入が進んでいると指摘していた。今後当面は、比較的軽く単価(付加価値)の高い物を対象に導入が進み、それ以降、相対的に付加価値の低いモノへの適用が順次進むだろうと、現実的な見通しを語っていた。

面白いのはその直後に米国での動きとして、rethink robotics社の人型ロボットが注目されており、雑貨など付加価値の低いモノのメーカーでも導入検討が進んでいる様子が伝えられたこと。日本製のように複雑な動きを幾つも組み合わせるのではなく、単純作業を繰り返す機能限定タイプである。そのため価格はなんと1台22,000ドル。しかも制御のためのプログラミングは全く不要で、動作をまさに「手取り」で教える方式。誰でも使える。

これだけ簡単かつ低価格であれば、町工場でも使える。中国に仕事を奪われ続けてきた米国の工場の逆襲の武器になるだけのインパクトは十分である。rethink robotics社は米国市場だけでなく世界への進出も計画しているとのこと。日本製の常識的なアプローチを一挙に抜き去る可能性を秘めている。さすが自由発想の国、USAである。

終盤に番組のキャスターが「人間の仕事を奪うことにならないのですか」と視聴者の懸念を代弁して質問していた。比留川氏曰く、「日本の製造業で最もロボット導入率が高いのが、トヨタに代表される自動車メーカー。彼らの競争力は高く、産業のすそ野を考えると雇用への貢献度も最高水準。ロボット導入と雇用とは両立する」と。これは米国でrethink robotics社のロボット導入を検討している工場経営者たちのコメントとも一致する。長期的には分からないが、少なくとも短中期的には製造業を国内に残すための有効な手段として、中堅・中規模メーカーでも検討が進むのではないか。