人命救助のためなら技術者は困難に立ち向かえる

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12月23日の「ガイアの夜明け」は「救える命を救いたい… ~執念の技術者が生んだ画期的な装置~」と題し、東日本大震災を目の当たりにした技術者たちが、「もっと救える命があったのではないか?」と自問自答をし、「自らの手で人命救助に役立つ画期的な装置を生み出そう」と動き始めた2つのケースを密着取材した。以下はその前半のケースを紹介。

今年、日本各地で大雨や台風による水害が多発した。しかし水の流れが強いと普通のボートでは救助に行けない。ましてや瓦礫が散乱し水面近くにあるようなところでは、水中にプロペラがある普通のボートでは、プロペラが破損して立ち往生してしまう。そこで、こうした水害から人命を救おうと、画期的なボートを開発した男がいる。宮城県登米市松島町出身の佐々木甲さんという技術者である。生業は内装業。

東日本大震災では、津波・濁流に飲みこまれ大切な命を失った人たちや、家の屋根・電信柱につかまり長い時間、救助を待った人たちが多くいた。水上のプロペラで推進する「エアボート」は、アメリカではレジャー用・救助用として一般的だが、日本にはほとんどない。

そこで佐々木さんは自ら「世界初の救助機能を備えたエアボート」の製作に挑み、なんと欧米の製品情報を勉強し、独学で設計図を描きあげたという。まずはエンジン用に、最新小型飛行機用エンジン・メーカーのHKS(富士宮市)を訪れるが、最初は飛行機用だからと難色を示される。しかし災害救助だからと掛け合い、その熱意に押されてメーカーも最新製品の開発者を派遣するなど、その気になる。日本小型船舶検査機構による検査も順調にパスする。

この独自エアボート、浅瀬の河原でも進むことができ、しかも「水面から人をすくい上げる装置」(巨大な金魚すくいである)を備えるスグレもの。そこまでの開発は比較的順調だった。しかし佐々木さん、その意欲は生半可ではない。「転覆しても自動的に復元する装置」という世界初の画期的な装置も備えようというのだ。

最初の実験では、復元浮上のためのバルーンが途中で引っ掛かり破れ、見事に失敗。転覆復元装置はかなりの難題である。破れたバルーンを抱えてシートメーカーを再び訪れた佐々木さんは、強度4倍だけど加工が難しいシートを提案され、夜まで5時間掛けて縫製・加工作業をしてもらう。それを使っての再実験は見事に成功。歓声と涙、抱擁だった。観ているこちらも胸が熱くなった。

一人の技術者が水害による被災者を救う為に制作した救助専用エアボート。日本にまだ無いそのボート作りは、彼に賛同した多くの町工場仲間の協力により完成した。多くの協力者は皆、「災害救助に貢献できる機会は今までなかった。是非協力したい」と申し出てくれた人たちだという。日本人の多くはこうした善性を持つのだと実感する。

震災後初の、消防防災の関連商品が集まる展示会で注目を集め、引き合いを受ける事になる。これから各地の消防署など災害救助活動に携わる機関で使われる可能性が拡がっており、佐々木さんは災害救助専門ボート製作の会社を立ち上げるという。是非、全国そして海外にも広めて欲しい。