中小企業団体は注力テーマを間違えている

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中小企業団体としては全国中小企業団体中央会(森洋会長)が総まとめ役ですが、実際には政府に対する発言・提言役としては日本商工会議所(三村明夫会頭)が代表格です。

でもこのコロナ禍にあってどちらも政府に対しては「中小企業の経営は大変なので支援してくれ」という主張ばかり前面に立っています。とりわけ11月にも予定される総選挙を前に、「応援するから公共事業や各種補助金は積み増してくれ」「最低賃金引上げの実施は先送りしてくれ、特に観光業や飲食業は現状維持を望む」という交渉態度が、否が応でも目につきます。

確かに観光業(宿泊業含む)や飲食業はコロナ禍の直撃産業なので、短期的に最低賃金引上げを猶予することはありかも知れません。しかしコロナ禍前、これらの業界は人材不足に悩んでいました。今後ワクチン接種が進んで世界的に旅行需要や外食需要が徐々に回復していくに従い、まずはサービススタッフを確保できないと需要を捉まえることはできません。中長期的には労働環境の魅力を上げていく努力が欠かせません。観光業・飲食業でもDXを実現し生産性をあげ、給料も上げていく必要があるのです。

そのためには安易な値下げ競争ではなく、いかに魅力的な商品・サービスを開発して単価を上げることができるかに知恵を絞る必要があるのです。あまりに多くの中小企業が同質的低価格商品・サービスに躍起を上げ過ぎており、自らレッドオーシャン化する市場に飛び込んで(または自らレッドオーシャン化させ)自らの首を絞める結果に苦しむ例が後を絶ちません。

それ以外の多くの業種では観光業・飲食業ほどの打撃を被っている訳ではありません。ましてや一部の業界ではコロナ禍の中、むしろ業績を伸ばしているか、需要の伸びに人材確保が追い付かないところも少なくありません。そうした企業でもやはり下請け根性が強過ぎて、コスト削減ばかりに目が行き、販売面では需要をより多く取り込もうと安易な値下げ競争に走る例が目につきます。差別化して付加価値分だけ価格を上げることこそ企業体質を強化する近道だということを忘れてはなりません。

そして中小企業団体です。政府に支援を求めるだけでなく、むしろ身内の中小企業に対しテレワークをはじめとしたDXの実践、そしてロボット等の省力化手段を積極的に推進することこそ中小企業団体の使命のはずです。実際、中小企業の多くが「どうやってテレワークを進めたらいいのか分からない」「業者に勧められる通りにやっても本当に効果を上げられるのか(無駄な投資にならないか)不安だ」という声が多いのです。

中央の中小企業団体が傘下の各個別中小企業団体に働きかけて、中小企業が実情に合った方法でDXの実践、そして省力化を推進できるようサポートするように指導するのが筋だし、最も有効な「指導力の発揮」のはずです。

ではなぜそうした動きが活発でないのか。端的に言うと、中央の中小企業団体も各地の個別中小企業団体もどちらも自らが大してDXを実践してこなかったから、ノウハウはおろか知識すら十分ではないからです。

彼らが今早急にすべきは、先行して実践してノウハウを貯めてきたユーザーとしての大手企業にお願いして、中小企業団体自らのDXを急ぎ実践することです(その際にピンポイントでコンサルティング会社やIT会社の支援を得ることはあってもいいですが、決して言い成りにならず自ら頭を使う必要があります)。

そして学んだ知識と習得したノウハウを生かして、加盟する中小企業に対し惜しみなくコンサルティングなどのサポートをするべきです。最初から各種の専門家(コンサルタント含む)に丸投げして指導させるべきではありません。そうした(丸投げの)やり方では効果を上げないことは、これまでの「地方創生事業」での数々の失敗が実証しています。必ず中小企業の能力的な限界をよく分かっている(しかも自らが一種の中小企業的な)中小企業団体の職員がよく考え、中小企業に向いた現実的なやり方を編み出すべきです。

でもだからといって決してペースをスローダウンさせてはなりません。人手不足もコロナ禍からの回復局面への対応も待ったなしなのです。そして日本経済の再生への残り時間も同じく待ったなしです。中小企業の生産性が上がらない限り日本経済の底上げはありません。中国などの新興国が思い切ったIT利用でどんどん先に行ってしまうのに、足踏みしている余裕は日本の中小企業にはないのです。

厳しいようですが叱咤激励して中小企業の生産性を上げることこそが、中小企業団体の真の使命なのです。