中国の今、そして反日デモの真実はどこに

グローバル

10月7日(月)に放送された「未来世紀ジパング」は「緊迫中国シリーズ第1弾 なぜ反日デモは起きなかった?日本企業、反転攻勢へ」。そう、中国であの反日暴動が吹き荒れた日から一周年だ。特に9.18は柳条湖事件の日。ひょっとしてまた、と中国でそして日本で緊張が高まっていた。しかし、結果的には何も起きなかった。1件のデモも起きなかったという。

去年のあの怒号、あの騒乱は一体何だったのか。「こん棒を持った中国人が目の前に立ちはだかった」などと反日デモの生々しい記憶を語る、日本人専用マンションに住む駐在員妻たち。子ども達も、敷地内にある日本人学校やスーパーに出かけるだけの「かごの鳥」の生活を余儀なくされていたという。当時、中国に出張で出掛けた日本人は外では日本語で話さないように神経を使っていたと話してくれた記憶がある。とにかくぴりぴりしていたし、身の危険を感じていた人は多かったのだ。

それが一年後には、なぜぴたりと止んだのか?番組では中国の街頭で80人に直撃インタビューし、中国人の本音に迫った。「他に関心が移った」の中には「中国人は忘れっぽいから」という笑える回答もあったが、やはり「政府の思惑」(≒今回は奨励しなかった)というのがホントのところだろう。

「今年は反日デモは起きない」。そう確信していたのは旅行会社H.I.S.中国グループ統括の中田祐司氏である。 デモから一年間、中国行き日本人ツアー客は8割減など、会社は大打撃を受けた(よく撤退せずに留まったものだと思う)。反日の空気が和らぎ「反転攻勢の時は今」と感じた彼は、同じく窮地に立たされていた日系の老舗ホテル、オークラガーデンホテル上海とタッグを組み、豪華格安ツアーを仕掛ける。通常一泊2万円の格式高いホテルオークラ、旬の上海ガニ付き、飛行機は全日空・燃油サーチャージ込みで三泊49,800円という驚きの内容。失敗は許されない。そんな緊張の中、販売初日を迎える。結果は、3日間で目標50名の倍、100名を達成。反転攻勢の第二弾、日本人駐在員家族ツアーも盛況だった。

もう1社、反日デモ直前に販売開始し、「富士山の水」の在庫の山を抱えてしまったTOKAIホールディングス。使い回しボトルによる偽造品問題などを抱える中国の水事情は変わらない。そこで入れ直しの効かないワンウェイボトルや新型ウォーターサーバーの開発に着手。安心・安全を売りにしたところ、「日本品質を待っていた」セレブ母たちに口コミで拡がり、好調だという。確かに潮目は変わったのだろう。

昨年の反日デモに参加した人物のコメントを、幾つも聞いたり読んだりした。イデオロギーに基づく行動でもなく、歴史を研究しているわけでもない。単に中国政府の反日教育に染められて「日本は悪いことをした」「日本人はうそつきだ」といった固定概念が染みついている。そうしたごく普通の若者が、普段の生活や仕事で面白くないことがあったりストレスを抱えていたりすると、(金がないので)レジャーに行く代わりに反日デモに参加して気勢を上げることで、ストレス発散をしようと出掛けたのである(あくまで中国政府がダメと云わないという条件の下で)。それが性質の悪い連中の扇動に乗ってしまい、日本企業の製品や店を破壊する行動にエスカレートしたのである。

今年は中国政府がメールで「デモには行くな」と送り、主な街の広場には警官を配備し、反日デモを完全に防止したのだ。それが正義だからではなく、習近平体制が固まっていないで日本政府と睨みあっているこのタイミングで非難の口実を与えたくないからであり、再び反日デモが暴走した場合に止められないことを恐れたからであり、万一中央政府の独裁に矛先が向かうのを恐れたからである。つまり、中国政府がリスクを犯しても「日本を懲らしめよう」と考えたら、再び反日デモ・暴動は起きるのだ。

1年でトルコ1国のGDP分の成長を続けている中国のサービス市場はまだ伸びる。そこに食い込む努力はもっと続けていくことで、日本サービスをきっかけに日本を好きになる中国人が増えることを望む。しかし世界の工場としての中国の役割は既に終わりつつある。だから中国での製造拠点を実質的に撤退するメーカーはまだまだ続出するのではないか。これは小生が以前にブログで書いた通りである。

中国からの「撤退ブーム」が教えるもの
http://www.insightnow.jp/article/7684