リーダーシップと埋もれた技術が蘇らせた「森下仁丹」

ビジネスモデル

8月22日放送のカンブリア宮殿が採り上げたのは「森下仁丹」。「“銀の粒”から生まれた最新技術!老舗企業の大転換経営」と題して駒村 純一(こまむら・じゅんいち)社長がこの老舗をどう蘇らせたかを追った。

丸く小さな銀粒、“仁丹”。50代以上にとってはお馴染みで、かつては日本人の携帯薬もしくは口中清涼剤として圧倒的な支持を得た商品。しかし今の若い人は見たことも聞いたこともないようだ(我が娘も同じだった)。銀粒仁丹の売上高は1982年の39億円をピークに減少の一途、森下仁丹は2003年、30億円もの赤字を計上していた。そこに大手商社を飛び出して飛び込んだ社長・駒村氏は大胆な改革を断行し、組織体質を変えることに成功した。

駒村氏の改革のひとつが、「血の入替」。社外から新たな人材を積極的に中途採用し、今や本社で働く社員の約6割が中途入社であるという。その結果、仕事の大幅なスピードアップと、従来の考えに縛られない自由な発想が生まれているようだ。さらに社員の意識を変えるため、自ら部下を社外へ連れ出し、異業種と交流させる。その中で社員の意識に生まれてきたのは、製品アイデアに加え、市場にとらわれない新分野への進出だった。駒村氏の就任以降、商品数は2倍近く増えたという。

そしてその決定打となったのが、森下仁丹が銀粒から培ったコーティング技術を活かし、10年の歳月をかけて確立した、独自のシームレス(継ぎ目のない)カプセル技術。これまで自社製品にしか活かすことのなかったこの技術を、駒村氏は「森下仁丹の宝だ」と見抜いた。この技術を外販することを決断し、これまで100社1000商品にこのカプセル技術は使われている。さらには海外のサプリメント、医薬品市場にまで進出し市場は大きく伸びている。今や他社からの依頼で作るカプセル事業が売り上げの約3割を占め、森下仁丹の利益の大きな柱となっているという。

これまで主に食品向けにカプセル技術を開発してきた森下仁丹だが、今新たに用途開発に乗り出そうとしている。第一に狙うのはレアメタル。廃品などに含まれ、未だ回収できていないレアメタルを採取できれば、大きなビジネスになる。そこで森下仁丹は工業廃液からレアメタルのみを回収できるカプセルの開発に着手、そして成功した。さらに先端医療の分野にも進出し、ガン治療の医薬品開発も始まっている。同社のカプセル技術を使えば、(従来の注射ではなく)錠剤としてワクチンを接種できるので、革新的な技術として大きく注目されている。今や伝統を墨守するだけの「死に体」老舗企業の面影はない。一人のリーダーシップによって企業体質まで変わることができる、立派な証明だ。