ベゾス氏が与えた時間的猶予と経営陣への課題

ビジネスモデル

ママゾンのCEO、ジェフ・ベゾス氏が、ワシントン・ポストを2億5000万ドルで買収することが報じられた。買収したのはアマゾンではなくベゾス個人の会社であり、いわばポケットマネーであることが凄まじい金持ち度を表している。したがって、この買収にアマゾンは企業として関与していない。今後も基本的にはそうだろう。

買収直後にベゾス氏が出したワシントン・ポスト社員への公開書簡は、性急な変化をもたらすよりは、じっくりと付き合う姿勢をみせるものだったようだ。ベゾス氏は、ワシントン・ポスト紙を急速に変革するつもりがないこと、現在のインターネットニュースは紙の新聞の利益を侵食しているが、それらには本質がなく、ワシントン・ポストが新たなニュースに関するイノベーションを起こすことを示した。

買収後も、例えば急速なデジタル化やウェブニュース事業の強化などに舵を切るわけではなく、これまで貫いてきた編集方針を大切にしながら、遅かれ早かれ迫られている新聞事業への変化を、独自にじっくりと作り出していくことになるだろう。ワシントン・ポストの経営陣は、抜本的な改革に向けての時間的猶予を与えられたということになる。

この買収に関しワシントン・ポストの記者たちは意外と前向きに捉えているとニュースで聴いた。こうした新オーナー・ベゾス氏の方針に、切り売りされたり無闇な転換を強制されたりせずにほっとしたというのが真相だろう。また、ベゾス氏がアマゾンの経営で見せてきた長期的視野による投資姿勢を評価している面ももちろんあろう。それに、噂が出ていたロシアや中国の大富豪に買収されて国益と反する記事を強制される場面もどうやらなさそうだということもあるだろう。

しかし米国の新聞業界が置かれている環境は日本で考えるよりずっと厳しく、数年以内に抜本的な経営改革が打ち出されない限り、経営陣は間違いなく更迭され、その場合には現場のリストラが検討される可能性は低くない。電子化されたコンテンツをいかに使い回しして収益化するかという課題は日米に共通するが、米国の新聞業界の試行錯誤が常に先行してきた。そして今のところ明確な答は見つかっていないという難題である。

ベゾス氏が新オーナーとして経営陣に対し今後打ち出すと考えられるのは、従来の延長戦上でなく、新しい土俵を作って収益機会を創造することだろう。しかも報道現場の知的活力を犠牲にすることなく。これはとてつもなく高いレベルのハードルである。