プロフェッショナル組織の経営者に求められる最低限の資質

ビジネスモデル

少々時間が経ったので、もう冷静になれると判断して(それでも慎重に警戒しながらだが)掲題につき書いてみたい。比較的最近、海外および地方勤務が長かったある友人と飲む機会があった。彼は元々その親会社でグローバルに活躍していたが、そろそろ定年もちらついてきたタイミングで、出向により子会社であるプロフェッショナル組織の経営者となったのだ。

彼の会社もコンサルティング部門を持ち(それなりに人数はいる)、少なくとも学歴的には立派な人たちが揃う組織である。小生は気楽にも、その組織にとっての幾つかのビジネス機会を指摘し、やり方によってはもっと成果を上げられると少々発破をかけていた。

友人としての気安さだろう、少し酔ったふうの彼が漏らした。「俺は、なんで経営コンサルティングビジネスって成り立つのかがさっぱり分からんのだ」と。どういうことか尋ねてみると、通常窓口になる経営企画部門の人たちからすれば、経営コンサルタントに依頼するのは自分たちの無能さを公言しているようなものじゃないかというのだ。未だにこうした考えのビジネスパーソンがいるのか、よりによって自分の友人で、しかもコンサルティング部門のトップでもある身で、と驚きかつ呆れた。確認すると、言い間違いではなく正直な感想のようだ。

経営企画部門の人たちから依頼されて経営コンサルタントがサービス提供するパターンとして、特定の業界知識以外に他の業界での類似経験や知識・対応ノウハウなどで付加価値を提供できること、業種にとらわれないファシリテーション・スキルなどで議論や分析を深めることができることなど、小生から色々と話してみたが、どうも会話がかみ合わない。

そもそも彼には想像が及ばないようだ。彼には依頼側として経営コンサルタントと対峙した経験がない。かといって経営コンサルティング・サービスの提供側のトップとして、クライアントとコンサルタントの丁々発止の場面に立ち会ったこともない。だから全て想像するしかないのだが、本当にピンと来ないのだ。

そもそも前提として、経営コンサルティングとは一体どういうサービスで、どういう場面で、どういうスタイルで提供するものかを勉強していないのは明らかだ。これは明らかに経営者としての怠慢なのだが、そんなことを指摘しても始まらない。

友人が自分の状況を客観視できるかも知れないと考えて、小生は自分の昔の社長の話を始めた。その社長も親会社から「天下り」してきたのだが、「経営コンサルティングを頼む経営者は自分が無能だと公言しているようなものだ」と、友人と同じような感想を持っていたのだ。小生はその社長(無能ではないが、頑固で周囲の異論を受け付けない「裸の王様」だった)に色々な話をしたが、結局平行線で終わった。

その社長の感覚と目の前の友人の感覚はほぼ同じだ。自らがそのサービスに対して持つ個人的感想を主軸に判断するのである。異なる事情を持つ他の経営者がどう悩み、どう考えるかには想像が及ばない。これは自分たちが提供しているサービスのポテンシャルを判断する際に、致命的な「素人判断」をしようとしているのに他ならない。

そもそも優秀な経営者であれば、その業界知識が不足していても色々な質疑を繰り返すうちに本質的なイシュー(課題)を絞り込み、解決仮説案を幾つか提示することができるものだ。同じように、我々のような経営コンサルタントは自分の得意分野という特定領域においてそんなことを繰り返しているのだから、少々業界が違っても応用が利くようになる。そんなふうにアナロジーも使ったが、それでもピンとこない様子だった。

もしそれが「あり得ない」と否定するのであれば、業種を移って別会社の経営者になった貴君たちは自分が役に立たないと白旗を上げているに等しいではないか。そんなことを思いながら、当時そしてつい先日、目の前の「自称、経営者」に暗澹たる気分になっていたのだった。