プロトングループの冷凍機とレストランは食の常識を変える

ビジネスモデル

知人から頼まれていた件で、加工食品向けに空調や冷熱技術を持つメーカーやその代理店などを週末にかけて調べていました。日本だけでも随分多いんですね。

その中で幾つか、旧来の冷凍技術に飽き足らず、新しいアプローチで組織破壊を避ける冷凍技術の開発に成功している会社があることが分かりました。以前、このブログで採り上げた、アビー株式会社の「CAS」も、マーズカンパニーの「シースノー」もそうですね。
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-102.html
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そして、この4月20日にTBS系「夢の扉+」で放送された菱豊フリーズシステムズ(奈良市)もまたそうした一社です。題して「フレンチの豪華フルコースが3000円!ヒミツは冷凍機!?冷凍食品のイメージを覆す新技術!」です。

その奈良県で、フランス料理のフルコースを3000円で味わえる、大繁盛のレストランがあり、番組冒頭で様子を伝えていました。「美味しい」と評判ですが、実は料理はすべて“冷凍食品”です。客も知らなかったようで、番組スタッフから告げられて驚いていました(それを知ったお客さんが再来店してくれるのか、気がかりではありましたが)。

食品の細胞を壊すことなく保存できるこの冷凍技術。出来立ての美味しさを封じ込め、解凍しても本格的なシェフの味を楽しめるのです。冷凍食品のイメージを覆す、画期的な冷凍機を開発したのが社長の二宮一就氏。もちろん、海産物だけでなく、おせち料理や握り寿司までも添加物を使わずに保存でき、遠隔地まで届けられます。旬の食材をまとめて調理し冷凍することで、フルコースの低価格も実現したのです。いわば「論より証拠」です。

「安全で優れた食材・食品を、いつでもどこでも世界中で楽しんでもらいたい―」。冷凍機器の営業マンだった二宮氏は“美味しさを保てる冷凍機”を作ろうと、15年前自ら会社を立ち上げました。しかし開発は至難を極め、来る日も来る日もマグロを冷凍して研究を続けた結果、退職金も使い果たし、次第に生活費まで圧迫していく羽目になったそうです。

それでも粘り続けた二宮氏は、やがて“水の分子構造”に着目します。凍る際に食品の中に含まれる水の分子配列が乱れるから細胞を壊す訳ですから、磁力と電磁波によって分子配列が乱れないようにすればよいと考えたのです(この発想はCASと同じかも知れません)。

そして開発された冷凍機(値段は1.5倍)が広がり始めています。肉や魚を凍らせてもドリップが殆ど出ないのですから、水産業や食肉業にとっては新鮮な驚きです。今や日本でも中国でも生産され、大陸内部への輸送に間もなく大活躍する見込みです。すでに地元・奈良コープ産業を中心にこの冷凍機を使った食品開発が進んでいます。冷凍機も大型だけでなく、店舗用のコンパクトな型も解凍機も新しく開発され、これからの躍進が期待できます。

菱豊フリーズシステムズはプロトングループと呼ばれ、お膝元の奈良県と中国にフレンチレストラン「プロトンダイニング」(番組冒頭のレストランです)と、奈良佐保短期大学キャンパスの学食としてバイキング形式の洋食店「レストラン鹿野園」を直営しています。後者の店舗はプロトン凍結技術を伝えるアンテナショップの役割を担っています。

これは執念の粘り勝ちですね。奥さんもよく支えたと思います。二宮氏の座右の銘は『とにかく、粘って粘って粘り抜く。それが結局は達成へとつながる―』とのことです。

次の世代のために、この冷凍機を使って何か出来ないか―。二宮氏は、東日本大震災の被災地・岩手県大槌町に対し、サケ加工工場の建設を提案しました。大槌で獲れるサケを加工して付加価値をつけ、雇用も生み出そうという国の復興事業です。

しかし、新鮮な魚を食べてきた地元の人々にとって、冷凍食品のイメージは良くなく、そのままではその気になれません。地元の理解なしに真の復興はないと、二宮氏は自らの冷凍機を使って、実際に凍らせたサケを使った料理のメニュー(目玉は「秋鮭といくらを使った炊き込みご飯」!)を色々と開発してふるまい、地元の人々にやはり「論より証拠」を見せたのです。実際に食べた人たちも「これなら」と納得して、この事業にまい進することになったそうです。大槌町には来年工場を建設し、地元の人たちを雇用するそうです。この工夫、この粘り、この志、本当に大したものです。

このメニュー開発まで提案できる、レストランのシェフを含む食品開発チームを自ら抱えていることが、この会社の強みにもなっています。冷凍機メーカーとレストランチェーンの結びつき。新しいビジネスモデルにもなるかも知れません。注目したいと思います。