ニッポン再生にITを活用するために必要な視点

グローバル

7月7日(日)に放送されたWBS25周年特別番組「ニッポン再生!緊急会議」。メルマガ(Pathfinders News)でも案内していた番組。ITをどう活用すれば産業競争力を高め、日本経済再生につながるのかを徹底的に議論するという趣旨。「IT社会の先端を行く経済人」として、坂根正弘(コマツ 相談役)、南場智子(DeNAファウンダー)、森川亮(LINE社長)、松尾豊(東京大学准教授)、井口尊仁(テレパシー社長)という人たちがスタジオで活発な議論をしてくれた。

実は番組前には疑問があった。なぜITだけを採り上げるのか?素材技術やバイオ技術なども同様に、日本経済再生に必須なのではないかと感じた。でも日本のIT競争力が21番目だとかいう情報も提示され、確かに日本経済の問題が凝縮されているのがITであり、IT活用が最大の「のり代」であることも間違いないと納得した。

IT活用のレベルが高い例として採り上げられたのがコマツ。番組ではコムトラックスの画面も表示され、世界に点在するコマツの建機がどこでどう稼働しているのか、問題がないのか、一目了然である。「24時間無料点検を受けているようなもの」という誰かのコメントの通りである。次のIT活用は自動化タイプの建機。作業図面データ通りに動くため素人でも運転できて人件費は安く済む(技術的には遠隔操作で無人運転も可能)。番組では紹介されなかったが、この自動化技術は測量機器のトプコンとの共同開発のたまもの。工事これらは導入する建設・土木会社にとってはメリットが大きいので、多少製品価格が高かろうが、中国製などに負けないのである。

(開発そのもののきっかけはATM強盗の頻発だったが)このGPS機能を標準装備する決断をしたのが坂根氏。確かにコストは割高になるので社内からは大反対されたのだが、ユーザーの稼働状況も分かるから、営業攻勢を掛ける根拠を得られると考えたようである。だから説得のセリフは「ユーザーのためじゃない、俺達自身のためだ」というものだったと聞いた。

問題は、普通の民間会社の凡人経営者にはコマツの坂根氏のような大胆な決断ができないこと。コメンテーターの高橋進氏(日本総研理事長)が指摘したように、業務効率化にITを使う発想は(ベンダーから提案されているはずなので)あっても、営業やマーケティングに使う発想は(ベンダーも思いつかないので)持っていない。日本の民間オフィスでIT化が進んでいないのは、ベンダーとユーザーの知恵と工夫の不足なのである。

ここで番組はIT化のメリットが大きい分野として医療を採り上げる。遠隔医療はメリットが大きいが、日本での普及には幾つかの障害があるという。医師の反対も強いが、もう一つ、診療報酬の問題。「対面の原則」(医師法では直接の対面診察が原則)というのがあり、遠隔医療だと医師の報酬が抑制されてインセンティブが低くなる。ちょっと話が飛ぶような印象はあったが、高橋氏が医療分野でのIT化による成功例として挙げたのが、呉市(広島県)でのレセプト(明細書)の電子化。ジェネリック薬との差額を通知するようにしたところ、医療費が3.5億円ほど節約できたという。

ここで森川氏が持ち出した「日本人の心の規制が重要」という議論が「掻きまわし」の効果をもたらした。日本人は変えたくない人が多いしそうした人は声が大きいから、そこが問題だという。そこで坂根氏が「規制をぶち壊すリーダーの執念が重要だ」と指摘。「規制の岩盤が強固であればあるほど、それをぶち破った者の創業者利益は大きい」というのは至言である。いくら規制が邪魔をしようと、民間トップの強い思い(執念)とリーダーシップがあれば突破は可能になる、との言葉は実に重い。

番組後半では、井口氏が開発した「テレパシー・ワン」というウェアラブル・ビュワー製品が主に採り上げられ、遠隔で同じものを観る(共有視する)ことができるその製品と、それを開発した井口氏のような起業家精神が議論の中心になった。実際、井口氏のいう「ウェアラブル・コミュニケータ」製品はコンセプトだけでなくそのデザインもよく、世界でヒットするかも知れない。それ以上に、井口氏のキャラクターが大うけだった。

こうした「空気を読まずに理想を追求する」異能者を量産することは難しいとは思うが、勝手に生まれる異能者を殺さない教育を教育界で、彼らに場を与える人材育成・投資を日本企業で、それぞれ思い切りやって欲しいと思った。やはり「角を矯めて牛を殺すな」である。