ニッポンのコメ農家は、JAに吸い取られる代わりに脱皮せよ

ビジネスモデル

12月10日(火)放送の「ガイアの夜明け」は「どうすればいいのか?ニッポンの農業」と題して、JAグループを中心に、新たな動きを始めた様々な農家や農業法人、企業の動きを追った。

TPP交渉が進んでいる中、コメの減反政策の廃止が決定した。コメや砂糖などの重要5品目の関税撤廃に反対するJAグループ。日本全国にある地域のJA農協。そして中央組織の「全中」「全農」「農林中金」。「全中」は政治的な活動、「全農」は農産物の流通、「農林中金」は農家への資金の貸し出しなどを担う中央組織である。こうしたJAグループは果たして本当に日本の農業のためになっているのか?

番組の中で2つの農家がJAバンクの預金通帳の中身を教えてくれる。収入の大半が農協に吸い取られ、農業では儲かっていない実態が示される。元農林水産省幹部で現在経済産業研究所上席研究員の山下一仁氏は、「JAが関税撤廃に反対する理由は、組合員である農家の数を減らしたくないからだ」と指摘する。彼は、JAに農協だけでなく金融・保険業まで許してしまったことが間違いだと断言。「農業が衰退する一方、JAだけが成長する、という構図が続いてきた」と批判する。

改革勢力も現れつつある。福井県にある地域の農協「越前たけふ農協」は、このままの農協では駄目だと、変革の必要性を訴えている。他の農協では全部のコメをブレンドして売るのだが、「たけふ農協」では手間を掛けて育てた優良米は高く売る。また通常、地域農協は上部組織である「全農」から肥料などを買い、農産物を収めている。しかし「たけふ農協」では、民間の業者から肥料を買い、農協の流通機構を通さずにコメの販売を始めている。その結果、地域の農家の収入と利益は着実にアップした。その取り組みは全国の地域農協から注目され視察も相次ぐが、中央に遠慮し、追随する地域農協は現れない。「全中」の代表者・萬歳会長は苦々しい表情で「703あるJAのうち2~3の話だ」と切って捨てた。

今、農協を通さずに、農産物を流通させる農家、農業法人が増えている。「できるだけ安く」という消費者や外食チェーンのニーズに応えるためだ。日本全国で耕作放棄地を借り受け、農地を復活させつつあるのが、大規模農園を展開するイオングループの「イオンアグリ創造」。今や全国12ケ所、約200ヘクタールの栽培面積になっているという。イオンの流通組織を使い、直営農場と100異常の契約農家から直接仕入、販売することで、新鮮な農産物を安く届けることができるのだ。

こうした外部環境の変化に危機感を感じ、中央組織である「全中」「全農」でも、変革を目指す動きが出始めた。茨城県つくば市にあるJA全農飼料畜産中央研究所が新型ハイコープ豚を開発。この豚は子豚を3割も多く産める特性を持っていた。アミノ酸を豊富に含み、ブランド豚にも負けない味わいだ。香港の中心部の高層ビルの中にある、JA全農がオープンさせたレストランでもハイコープ豚の売込みをしようとしている。全農はこのようなレストランを世界各地に展開しようと計画している。

宮崎市の畜産農家・尾崎宗春さんは、TPPを恐れずにチャンスにすべきと主張している。尾崎さんは約1000頭の牛を肥育し、農協を通さずに直接レストランや消費者に牛肉を販売し約3億円を売り上げている。牛肉は「尾崎牛」と名づけられ、料理王国などの雑誌にも取り上げられている。海外の消費者にも極上和牛として認知され、香港のレストランでも使われている。

尾崎さんは「自由化前は1人あたりの消費量が4kgだったのが、自由化によって12kgまで拡大し底辺が拡大した。その頂点にいることで、美味しい牛肉を食べたい人の需要をまかなえる」ことを語った。事実、農水省の調査では、肥育農家戸数は7割減少しているが、国内の牛肉生産数量は1割しか減っていない。これは尾崎さんのように、美味しい牛肉を作り上げ、大規模化にも成功した農家が登場したためだ。

尾崎さんは、多くの米農家の人たちは「TPPでダメになる」という事しか頭に無いが、やり方次第で夢やマーケットが広がる、と指摘した。まさにその通り。ニッポンの農業を変革するのは政治でも農協でもなく、やる気のある農家だと感じた。