ダイソンが示す、ニッポン家電復活への険しい道

BPM

5月15日 放送のカンブリア宮殿は「世界を席巻!常識破りの家電メーカー・ダイソン」。創業者のジェームズ・ダイソン氏がスタジオに現れ、その不屈の開発経歴とユニークな経営哲学を語ってくれました。

番組で紹介された、家電量販店の売り場。そこを占拠するのはサイクロン式です。高価格ながら、圧倒的強さを誇るのがダイソン。「吸引力の変わらない、唯一の掃除機」サイクロン式の本家本元の強さです。

次に映されたのが、マレーシアにあるダイソンの開発拠点。中では何百台もの掃除機が動き続けており、あらゆる稼動部分にさまざまな負荷をかけ、「10年間壊れない」圧倒的な丈夫さを作り上げているのだそうです。コンクリートの床への衝撃テストは、なんと1万回。どんな床にどんなゴミが落ちると吸い込みにくくなるのかを研究している部署もありました。カーペットやら畳やら、世界じゅうの異なる床が研究対象です。

創業者であり、チーフ・エンジニア、ジェームズ・ダイソン氏は、世界的にも有名な王立美術大学でデザインを学び、その後いくつもの発明をヒットさせた生粋の技術者です。

ある日自宅で掃除をしていたダイソン氏は吸い込みの悪い掃除機にいらだち、替えの紙パックがないため途方に暮れていました。結局、ダイソン氏は、一度ゴミを吸うと目詰まりしてしまう紙パック方式の欠点を突き止め、そして倉庫の片隅でたった1人の掃除機作りが始まったのです。その日から作った試作品の数、なんと5127個(会社の壁に番号とエピソードが書いて貼ってあるのです!)。

しかし若きダイソン氏には製品を量産し売るだけの資金がありません。サイクロン技術を買ってくれるところはないか欧米を飛び回り実に20社近いメーカーに売り込みに回ったのですが、そのすべてが失敗、逆に契約をめぐって訴訟にまで巻き込まれたそうです。自分で会社をつくり、掃除機を発売したのは、最初の試作品から実に15年後だったのです。この不屈の精神には頭が下がるしかありません。

今やサイクロン方式の掃除機が市場を席巻し、「羽のない扇風機」で世の中を驚かせ、最近では強力ハンドドライヤー(エアブレード)でやはり世の中の常識を変えようとしています。

その製品の魅力は強力なパフォーマンスもさることながら、ユニークなデザインです。しかも奇抜なデザインありきではなく、ユーザーが価値を感じる機能を徹底追求した結果、常識はずれでユニーク、洗練されたデザインの商品となるのです。それが独立心のある人々を魅了するのではないかと思います。

本社では2000人のデザインエンジニアが働いています。そこで開発されたある画期的な商品が、ひと回り小さくなったのにより高速回転のデジタルモーター。ダイソンの掃除機をひと回り小さくし、エアブレードを成立させました。デザインという仕事とエンジニアリングという仕事を合致させている同社の象徴でしょう。「製品より経営を優先させることから会社はおかしくなる」というダイソン氏は、その時々の世の中を変えた製品もしくはそのミニチュアを自らの執務室のテーブルに置いて時折見ているとのことで、根っからの技術者魂の塊であると感じました。

番組の終わりのほうで面白いものが紹介されました。ロンドン科学博物館にある「生活を変えたさまざまな製品」の進化をたどるコーナーです。最後に登場するのが、ジェームズ・ダイソンが発明したピンクの掃除機、初期のサイクロン掃除機です。”made under license in Japan”とあります。エイペックス社の「Gフォース」です。これでライセンス収入が入り、ダイソン氏は大いに助かり、日本には感謝しているそうです。

現在苦戦している日本の家電メーカーに対し、ダイソン氏はこうアドバイスを送っていました。「問題はマーケティング担当者が製品にちょっとずつ改良を加えることをよしとしている点です。何かを大きく変えるのは難しいですし、勇気が要ります。莫大なお金を掛けないと新しい技術も生まれません。…ですから勇気を出して多くの資金を掛けることです」。

サラリーマン根性の技術者と経営者ばかりの日本メーカーにその勇気が生まれるのか、それが難しいところでしょうね。