ソーシャルビジネスに挑む若者の気概、それが許されない若者の憤慨

社会制度、インフラ、社会ライフ

「今時の若い者は…」という言い方は古代の時代からある年寄りの言いぐさである。しかし現実には、世代や性別の違いより個人の考え方(価値観)の違いのほうがずっと大きい。今の若い世代の中にも革命児はいるし、従順なフォロワーもいる。

3月22日に放送された『ガイアの夜明け』は『シリーズ 働き方が変わる 第12弾 “安定”を棄ててでも…』というタイトルで、社会起業家という新しい生き方を目指す若い人たちの姿を描いた。「安定した企業に就職して、少しでもいい給与をもらって..」という”理想の就職の形”を棄ててでも社会の役に立ちたいという考えが、若年層に広がりを見せているのだ。

京都の中心部にあるチョコレート専門店「Dari K(ダリ・ケー)」は毎日チョコを求める人の行列ができる人気店だ。原料のカカオ豆からチョコレートを作る”こだわり”が人気の秘密らしい。経営者・吉野慶一さん(35)はエリート外資系金融マンだったという。

「発酵」という手間をかけずに出荷していたことから、低品質ということで買い叩かれていたインドネシアでカカオ豆農家の窮状を目の当たりにした彼は、現地のカカオ豆農家の収入を増やそうと、自らチョコレート店を開いたのだ。

いま吉野さんは、インドネシア産のカカオ豆に付加価値をつけることに取り組んでいる。現地に発酵施設を作り、そこに収穫したばかりのカカオ豆を持ち込んでくる農家の人たちに実演講習もして、農家自ら発酵して付加価値をつけることに意欲的になってもらおうとしている。立派な活動だ。

もう一つはソーシャルビジネス(ビジネスを通して社会問題を解決しようとする活動)を手がける「ボーダレス・ジャパン」。社長の田口一成さん(35)は大手企業に勤めたのちに独立して同社を立ち上げ、バングラデシュの貧困層が作る本革専門店「ビジネスレザーファクトリー」の事業を軌道に乗せ、現地の雇用を生み出すことに成功した。

田口さんが今、取り組んでいるのは、若手の育成。田口さんの考えに共感して入社した新卒の社員らが、やりたいソーシャルビジネスに挑戦できるような仕組みを導入した。ビジネス・アイデアをプレゼンし、経営陣のOKが出れば「事業チーム」発足、事業のスタート時に1000万円が出資される。売上があがったら半年ごとの追加出資の制度もある。

この制度を利用して2年前に子供服事業を立ち上げたのが、入社6年目の中村将人さん。彼はバングラデシュの貧困を救おうと考え、中国で子供服の生産をしているが、将来は現地に工場を作って雇用を生もうと活動していた。

ところが自社工場を作り、現地でミシンが使える人を募集すると、訪ねてくる女性たちは技術が未熟だったり、使える機種が限られていたりして、やむなく門前払いするしかない事態に。Nさんは簡単に縫える商品を増やし、技術に応じた雇用ができるように路線を変えた。これでようやく体制が整ったようだ。

今回の番組にはいくつか余談が付いてきている。

番組公式ツイッターが「良い給与に、安定した生活…。そんなものは『後回し』という人が、増えてきているんだそうです」と書いたことに対しては、「まるで低い賃金で奉仕する事が美徳であるかのような言い方はやめて頂きたい。メディアがこの様な誤った労働をまるで美徳であるかのように垂れ流すから若者の低賃金問題が解決しない」といった批判が殺到して炎上状態になったそうだ。

「この様な誤った労働」云々というのは誤解であると思うが、低賃金に苦しむ若者の気持ちを代弁していることはよく分かる。しかし番組側も「低い賃金で奉仕する事が美徳である」というニュアンスで伝えるつもりはなく、むしろ「こんな若者もいる。こんな生き方もある」ということを伝えたかったのではないか。

この番組に登場した若者たちは、若いうちにソーシャルビジネスに転身することができた成功者で、あくまで一部の例外にすぎないことは事実だ。確かに、大半の若者はむしろ搾取される側にいるというのが実態だ。だから若者一般に対しこうした生き方を求めることには無理があるし、別段、大手企業や公的機関で世の中に貢献することでも十分だ。

ただ、その場合も給与額や権限・名誉ではなく、社会貢献度がもたらす満足度が大きいことを重視して欲しいというのが、我々のような世代からの希望ではある。そして本来ならもっと上の世代(我々を含む)がもっと実行していてよかった話だろう。そうした反省は我々がしなくてはいけない。

また、海外の貧困層だけでなく日本国内の貧困層を救う活動や国内の介護職と保育に携わる人たちにスポットを当てるべきだという声も見られたようだ。

しかし、ボランティア活動や介護・保育の低報酬に関するイシューは番組が別の機会に採り上げるべき話で、テーマが違うだろう。今回はあくまでソーシャルビジネスであって、たまたま舞台が海外というだけだ(多分、国内にも実例は多くあると思う)。

また、新興国の安い労働力を使うことについて、海外に生産拠点を求める既存の日本の大手「企業ビジネス」と、さほど変わりないといった批判も目にした。

しかしながら誤解してはいけないのは、こうしたソーシャルビジネスが狙っているのは、貧困層に対し適切な雇用機会や取引価格を提示することで彼らの経済的自立に貢献することだ。大手企業が最優先するのは利益の極大化なので、貧困層の地域は無視してインフラが存在する場所を優先するし、買い取りの際の価格は買い叩くのが基本だ。ソーシャルビジネスというのはその理念と活動指針が全く違う。

その程度の理解はしておかないと批判する資格すらない。