コンビニの24時間営業問題の本質は『利害の対立』だ

ブログビジネスモデル

(以下、コラム記事を転載しています)

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コンビニの「24時間営業」問題に関し、コンビニ本部は「それが本当にFC店オーナーのためになるのか」という問いに答える責務がある。その関心の矛先がどこにあるかを端的に表すのが「ロイヤリティの算出ベース」だ。

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新型コロナウイルス騒ぎですっかり話題から消えた格好になっているが、日本でも感染が拡大する直前の2月頃まで、コンビニの24時間営業問題が随分と議論されていたものだ。

元々は大阪府にあるセブン-イレブンのフランチャイズ(FC)店のオーナーが、人手不足などの理由から本部に無断で時短営業に踏み切ったことから騒動が始まった。当初は「契約違反だ」「この人手不足の時代に深夜バイトは雇えない」「その代わりに毎晩レジに立たないといけなくなってしまうFC店オーナーにも、人間らしい生活を送る権利がある」といった辺りまでは、比較的まともな議論が交わされていたと思う。

しかし「そもそも24時間営業する必要があるのか」「いや、既に社会インフラとなったコンビニ店には責任がある」「コンビニが消灯したら深夜の帰り道が暗くて物騒だ」などと、各種メディアが取り上げるにしたがって論点が核心から逸れていった記憶がある。

それはさておき、経産省がコンビニの24時間営業について柔軟な対応を求める提言を行ったこともあってか、当事者たちは事態の収拾を進めたようだ

ファミリーマートは大規模な時短営業の実験に踏み切ると共に、業界で率先して加盟店が時短営業を選択できるようにした。ローソンも深夜休業対象店舗を拡大すると共に、セルフレジ決済の実験を進めている。当初頑なに24時間営業に拘っていた最大手のセブン―イレブンでさえも、本部了承を条件に営業時間の短縮容認に転じている。

それにしても何が問題だったのか、整理してみよう。

24時間営業を止めたい(時短営業したい)というFC店オーナーの言い分はシンプルだ。「深夜営業は売上が上がらない。その一方で、元々値上がり傾向にあるバイト代は深夜増しでさらに高くなり、人件費などの運営費が粗利を上回ってしまう。つまり赤字になる。だから止めたい」というものだ。

仮に深夜のバイトに応募してくれる人を確保できずにオーナー家族自らが深夜営業すれば、バイト代は節約できるかも知れないが、過労で家族の生活は破綻しかねない。これはこれで大きな問題だ。そのため世間は概ねFC店オーナーに同情的だった。

それに対しセブンなどは、「大半のFC店からはそんな問題は指摘されていない。一部の怠慢な店側の問題だ」と当初はあからさまに問題の矮小化を図っていたが、多くのFC店からも同様の問題が指摘されるようになると、別の言い分を主張し始めた。面白いのはそのビジネスモデルゆえの特殊なロジックだ。

いわく、「24時間開いているという信頼があるからこそお客様は来店する」「未明の時間に納品検品を済ませ弁当などの品出しを済ませておかないと早朝の来店客に間に合わない」「早朝に開いていることを見せておかないと午前中から昼間に掛けての売上が伸びない」などという主張だ。多少なりともこの業態の特殊な事情を理解していないと、「?」といったところだろう。

それにもう一つ、コンビニ本部としては幾つもの店が時短営業になってしまうと、そのエリアへの深夜配送の効率が落ちてしまうという事情もある。あまりあからさまに主張すると「本部の理屈だ」と反発されるかも知れないので言わないようだが、それがビジネスの全体最適と密接な関連を持つことは認めてしかるべきだろう。

これらのコンビニ本部の言い分は長い間に、そして日本各地での営業を通して裏付けされており、ビジネス運営者の視点からはそれなりに経済合理性を持つものだ。

しかしもう一つ、一番の本質部分で念頭に置いておかなければいけないのは、FC店オーナーとコンビニ本部が拠って立つ利益の方程式が違うことだ。

FC店オーナーにとっての利益の方程式は誰でも理解できる。本部への上納金であるロイヤリティ、バイト代などの人件費、光熱費といった比例費に加え、さらに地代や(店を始めるために借金をしていれば)金利などの固定費を支払う必要がある。それらを売上から仕入れ原価を引いた「粗利」から差し引いた残りがオーナーの「利益」であり、オーナー一家はそれで生計を立てている。

一方、コンビニ本部の主な「売上収入」はFC店オーナーから支払われるロイヤリティである。その収入から人件費や本部の諸々の運営費を差し引いた残りがコンビニ本部の「利益」となる。

だからロイヤリティが多ければ多いほどコンビニ本部は利益が上がり、FC店オーナーとしては利益が削られる。典型的な「利害の対立」の構図だが、ロイヤリティの根拠としてのコンビニ本部のマーケティング力(この場合、商品・サービス開発、ブランド、宣伝による誘客効果など)が優れていて、店の売上と利益が共に継続的に上がっていればFC店オーナーとしては文句ない。

しかし深夜営業のようなイシューが生じると、この『ロイヤリティ』の算出ベースが否応なしに引っ掛かってくる。どのコンビニ本部もFC店との共存共栄を謳っている割に、「粗利」がその算出ベースなのだ。決してFC店オーナーにとっての最終的な「利益」ではない。ここは大事なので注意して欲しい。

この結果、どういう行き違いが生じるのか。

コンビニ本部としては少しでも売上が立てば「粗利」は押し上げられる。たとえFC店が深夜バイトに5,000円のバイト代を支払って、お客が5人しか来ずに3,000円の売上しか上がらずとも、「粗利」はプラスなのでロイヤリティ額は追加されることになる。だからコンビニ本部としては、何がなんでも店には24時間営業してもらって売上を上げて欲しいのだ。

一方、FC店としては「利益」が増えるのか、それとも減るのかを考えざるを得ない。

3,000円の売上から得られる粗利が仮に1,000円だとしよう。そこからロイヤリティを例えば10%の100円引かれるとしたら、残りは900円。そこから5,000円のバイト代と例えば100円の光熱費を支払って、粗利1,000円-比例費5,200円=▲4,200円の損失だ(売上3,000円-バイト代5,000円=▲2,000円の損失ではない)。

地代や利子などの固定費分があるから少しでも売上を上げたい気持ちがあっても、やればやるほど赤字が膨れ上がるのは明白だ。深夜営業を止めたいというFC店オーナーの主張とはこういうことなのだ。

これが深夜営業することで、5,000円のバイト代を補って余りあるほどの粗利を生むのならばFC店オーナーも喜んで店を開けたいに違いない。詳細は分からないが、それは例えば今適当に挙げた数字の5~6倍くらいは必要なのではないか。

その売上が見込めないと判断したFC店オーナーにとってのベストの策は「深夜には店を閉める」ことなのだ(もちろん彼らだってコンビニ本部から脅かされている「その結果、昼間もお客が減りますよ」ということは十分懸念しているに違いない)。

この利害対立を乗り越える本来の策は、コンビニ本部がロイヤリティ算出のベースを「粗利」から「利益」に変えた上で(もちろんその際は「率」も変える必要がある)、FC店がより多くの利益を上げるための方策をFC店の立場に立って考えることである。それが「共存共栄」ということのはずだ。

しかし寡聞にして、大手コンビニ本部のいずれかがそうした検討をしているという話は聞いたことがない。多分この先もないだろう。