グローバル化、合成の誤謬、そして競争力の源泉

ビジネスモデル

NHKスペシャル、日本新生「”雇用の劣化”を食い止めろ!」を録画してあったのを観た。

基調講演的に藻谷浩介氏が最初に考えを披露している。曰く、日本経済が劣化したのは、企業が総人件費を削る→各世帯の給与が低下→国内消費が低迷→企業業績が悪化、という悪循環のせいであると。しかも2000年~2010年にかけての日本企業の総人件費がマイナス7.7兆円減少している一方で、内部留保は5.5兆円増加し、配当金もなんと5.5兆円増加していることも明らかにされた。そのうえで彼は、日本経済復活のためには「人件費を上げることができる企業から始めていくことで悪循環を解消できる」と訴えたのである。

それに対し(賛成派は諸手を挙げていたが)「中小企業にはそんな余裕はない」「競合が人件費を抑制して低コスト/低価格攻勢を仕掛けてくるのに対抗するためには仕方ない」などの批判とも愚痴ともつかない個別の反論が出た。「理屈では分かるけど、ウチではできない」というのが本音だろう。結局、個々の企業や個人が合理的な行動を執りながらも、全体ではどんどんマズイことになる「合成の誤謬」の典型的事象なのである。

番組ではあまり明らかにされていなかったが、そもそもこの問題の出発点はグローバル化にある。グローバル化の進展に伴い、特に製造系の企業では新興国との企業レベルでの競争および製造拠点との従業員レベルでの競争が一挙に顕在化したのだ。それを円高が加速しているのだ。そして大企業のコスト抑制の要請が下請けへの値下げ圧力となり、それが手っ取り早い手段として中小・零細企業から始まった賃下げ・首切りとなって表面化したのである。

したがってその根本原因に対応しないままの給与増の要請は画餅である。結局、人件費を上げると同時に企業競争力がアップするという対立要素の両立を図るしかない。実はここにこそ日本企業復活の鍵がある。

そもそも給与抑制が競争力アップにつながるという発想自体が、外資系の人事コンサル会社と再生ファンドの後ろ盾となっていた外資金融の「大嘘」なのである。実際、10数年にわたって給与総額を下げ続けた日本企業は人材流出を招き、世界での存在感を急速に薄めてしまったでないか。

今日本企業がやるべきは、自社の競争力の源(コアコンピタンス)と「顧客に選ばれる理由」を知恵を振り絞って考えて、戦略とビジネスモデルの組み立て直しに貢献する人材に、権限とやり甲斐を与えて、体を張って挑戦させることである。ちまちまと互いに給与を削ることに窮々としていては決して、ダイナミックに動く新興国にも、ブランド・技術力を背景に着実に浸透する先進国の競合企業にも太刀打ちできない。日本企業の強みであるロイヤルティ(忠誠心)を失わないためにも、企業経営者には勇気を出してもらいたい。