カレー文化は綿密な製品戦略と継続的改善の成果

BPM

10月10日(木)に放送されたテレビ東京「カンブリア宮殿」が取り上げるのはハウス食品。題して「日本のカレー文化を創った100年企業  家庭で愛される強さの秘密」。

幕末時代に伝えられたカレーは今や日本人の国民食。カレールーの国内シェアはハウス食品が58.6%、エスビー食品が26%、江崎グリコが12.6%と、順位が1つ違うと半分になる。つまりハウスがガリバー的存在なのである。で、なぜハウスが人気なのか。売上1位のバーモントカレーは定番中の定番だが、なんと10種類もある。ほかに特長の異なる、こくまろ、ジャワカレー、ザ・カリー等々と網羅的な品揃えだ。

家庭ごとに微妙に異なる好みに対応した「母の味」をそれぞれ実現し、それが代々受け継がれていく構図だ。しかも子供の成長に合わせて辛さのステージを上げていくという細やかな戦略がベースにある。具体的には小さな子供がいる時にはバーモント、子供が大きくなるとこくまろ、子供が独立したらジャワへと移っていく。そのそれぞれで甘口→中辛→辛口と選べる。大したものである。

しかも時代に合わせて少しずつ味やコク、色を変えているという。味覚の設計図というのが、それぞれのカレールーで作られている。同じバーモントでも甘口、中辛、辛口ごとに異なり、縦軸に「風味の強さ」、横軸に時間(口に入れてから感じる味の順番!)と、綿密に個性を設計しているのだ。こくまろカレーはよりコクを出すため、なんと新たに粉末味噌が加えられているという。

パッケージも考えられている。容器包装開発部というのがあり、容器を日々設計し3Dプリンターでサンプルを作る。例えば少子化に合わせてパックが半分の大きさで独立している。しかも手を汚さずにカレールーのパックのふたが開けやすくなっている。ルーを半分使ったあとも外箱を捨てないでいるように、外箱を折りたたんで保管するように考えてある。たいていの食品の袋は開けにくく、うっかりすると周りに飛び散ってしまう。ここまで考えているメーカーは珍しいし、素晴らしい。

ハウス食品の社長・浦上博史氏は創業者一族。2009年に43歳の若さで社長に就任。美味しさの最大公約数は難しいのでは?という村上龍氏の質問に対し、浦上社長は「カレーはバラエティに富んでいて、ニーズによって広がりがある。風味やスパイス、煮込んだカレーが好きといった嗜好に合わせて複数のカレーでカバーしている。さらに顧客の嗜好も変化するのでカレーの改良を続けていて、ユーザーの方に現行品と試作品を食べ比べるなどして貰っている」という。これこそ継続的改善の成果だと思う(この部分は小生の専門でもあるので、強調しておきたい)。

1965年に制定された「ハウスの意(こころ)」(社是)。一番めの「自分自身を知ろう」で始まる。特に村上氏も感心していたのが2番目の「謙虚な自信と誇りを持とう」である。短く、本当によく考えられた文章である。3番目は「創意ある仕事こそ尊い」。さすが食品メーカー、どれも「味わい」のある文である。

馴染みのある会社で何となく分かっていると思っていたが、「意外とやるな、この会社」(失敬!)といったところだ。