オフショアBPOに潜む罠 (2)

BPM

オフショアBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のもう一つの代表業務がコールセンターである。しかし本当にオフショアBPO向きなのだろうか。

中国や東南アジアに日本の顧客向けコールセンターが開設されるケースがこの5~6年の間に急増している。最近でも日本人の比較的若い人向けに中国やフィリピンなどで「コールセンターのお仕事をしませんか」という募集が時折あるが、詳しい知人の話では、現地在住の日本人や日本語を学んだ現地の人の応募よりも、日本に住んでいる日本人が現地に移住する割合のほうが多いそうである。当然ながら給料は現地水準であるが、物価も日本に比べれば安いので人並みの生活はできるということだ。

日本での雇用崩壊の一端ではあるが、先進国から途上国への出稼ぎという妙な構造であることは否めない。しかし日中間の関係悪化に加え、今や日本の景気が底打ちしようとしており(逆に中国景気は悪化に向かう可能性が高い)、友人や親兄弟そして住み慣れた環境を捨てる「逆出稼ぎ」基調がずっと続くとも考えにくい。するとコールセンターのオフショアBPOの働き手は、日本語を学んだ現地の非日本人がいずれ主流になっていくのだろうか。

最近よく売れている「10年後に食える仕事 食えない仕事」という本の中で、「重力の世界」(IT化で瞬時に海外移転する職業)の代表例にコールセンターのオペレータが挙げられていたが、実態を踏まえた内容なのか、素朴な疑問を感じる。世界言語である英語を話せる人が途上国にも豊富におり、コールセンターのオフショアBPOが世界中に拡がっていることから、英米のビジネス記事にはこうした論調がよく見られる。しかしローカル言語である日本語が鍵となる業務に関する限り、単純な敷衍(ふえん)は危険である。

コールセンター業務というのは求められる技能や知識レベルが高いことが多い。日本のお客さんの問い合わせは曖昧なもの言いが多く、それを正確かつてきぱきと理解した上で適切な方向に誘導するというのは誰にでもできるものではない。日本人でも平均以上のコミュニケーション能力がないとうまくできないのに、日本語ネイティブでないのにちゃんとできる人はどれくらいいるだろう。第一外国語として日本語を学ぶ大学生は、比較的日本好きな東南アジアでもあまり多くないのが実態である。

しかも苦情処理の機能が求められる場合、精神的にきつい。したがってスタッフの定着率が悪く、どの国内コールセンター業者も採用に日々苦労している(こんな「焼畑農業」を続けていること自体が本質的におかしいのだが)。それを日本でなく海外で、日本語コミュニケーションに堪能な人材を常に獲得し続ける必要があるのだから、中期的に考えれば随分チャレンジングな話だと思う。

一方で、コールセンターの対応が顧客満足に直接響く重要要素となっているケースは少なくない。コールセンターでの顧客対応の丁寧さや適切さのお陰で受注が増えている、顧客離反率の高い業界でありながら最低水準を維持できている、などという経営者の自慢を聞くことも時にある。こうした場合、安易にコスト削減だけを求めて自社の強みを放棄するような愚を犯すことがあってはならない。

あれこれと幅広の考慮をした上で、それでもなおオフショアBPOだという結論が出るなら思い切って実施すればよい。しかし最初から選択肢を歪めて狭くするべきではない。大手メーカーの工場撤退が近年続出したことなどを考えると、そろそろ日本の地方都市に再度目を向けてもいい頃だと小生は思う。そしてその際には、問い合わせ客の気持ちに寄り添いながらも従業員満足が上がるよう、ビジネスプロセスを思い切って見直すことを、是非併せて考えて欲しいものだ。